バングラデシュ、首都ダッカの南西に位置する、2020年にサイクロン・アンファンによる多大な被害を受けたクルナ県コイラ郡で、復旧・復興事業として「サイクロンが多い地域での地域防災支援」を実施しています。

コイラ郡のとある住居地域

この地域はサイクロンの常襲地域であるにもかかわらず、一時的な緊急支援活動は行われるものの、政府やほかのNGOによる継続的な活動はなかなかみられませんでした。そこで、シャプラニールは現地パートナー団体・JJSとともに、支援から取り残されているこの地域で緊急救援活動を経て、対象地域のニーズを把握するために、災害時に最も脆弱な立場に置かれる世帯(女性、子ども、障害者、高齢者のいる865世帯)への聞き取り、関係者へのインタビュー、視察によるインフラの状況の確認などの調査を行い、継続支援について検討を行いました。(調査についてはこちらのブログをご覧ください)

調査から見えてきた課題

聞き取り調査では、災害時には適切な避難行動が十分に行われておらず、家族全員で避難する世帯は85%で、要援護者に手助けをして先に避難している世帯は15%のみとなっていました。

その原因に、例えば、避難シェルターへの道が浸水してしまって移動できていなかった、地域全体が防災への十分な備えができていない(防災意識の向上が必要)、各行政村の災害管理委員会などの防災にかかわる組織・団体は存在するが地域内での役割を充分に果たしていないことがありました。

被害を受けた地域(2020年)
サイクロン・アンファンの影響で住居地区に水が流れ込む様子。浸水被害は深刻に(2020年)

バングラデシュの地理的な特徴に高低差があまりなく、各地に大小さまざまな河川が流れています。そのため、こうしたサイクロンが常襲する水害に脆弱な地域では、河川に水が流れ込み堤防が決壊し、住居エリアや田畑(ここはエビの養殖が盛んな地域)が浸水してしまいます。この地域では海水が井戸、トイレ、田畑へ流れ込んでしまうため、塩害は人々の日常生活を大きく左右し、深刻な問題となっています。

河のすぐそばにある住居では「水位が上がるとトイレや自宅も浸水してしまう」と聞きました。 特に貧困層が多い地域では、被害の修繕が間に合わず、次のサイクロンが襲来し、収入手段を失った人々がさらに苦しい生活を強いられることもあります。

河のすぐそばにあるお宅

調査結果に基づき復旧・復興支援を開始

対象世帯の16%しか家の基礎を高くしておらず、塩害により衛生的な飲み水・生活用水の確保(家畜が感染症にならないためにも必要)が難しくなっていました。また水を介した感染症の増加も懸念されていました。井戸からの水が確保できなければ、女性が遠い井戸まで水汲みに日々通わざるを得ない状態となります。

こうした地域の課題と現状の調査を経て、シャプラニールでは、2022年度より、道路の整備、井戸やトイレなどのかさ上げ修繕や避難シェルター設備の充実といったサイクロン・アンファンからの復旧・復興支援を開始しました。

基礎を高くした家でインタビューしている様子(左端:内山駐在員)。「洪水のときはここまで水が来たの」と家の基礎の一番高いところを指さしながら教えてくれました。(2022年5月)

この地域に住むアベラさんは、「COVID-19の影響で仕事がなく出稼ぎをせざるを得なかった。被害を受け続けると修繕することも間に合わない。でも引っ越すことも考えたがそんな経済的な余裕もない」と話してくれました。(2022年5月) この復興事業では、日々の生活に不安を抱くことなく、安心できる土地で暮らし続けることが求められているのです。

【地域で得た学び】現地パートナー団体JJS代表・ザキール氏のお話

“市民それぞれが自分たちの役割・仕事を意識して活動するようになると活動の継続性が高まる”

シャプラニールには、人を中心とした参加型の開発アプローチを学びました。バゲルハット県の前事業では「地域住民の意識向上」が一番の学びだと感じ、それらをこのコイラ郡で活かした事業を進めています。

さらに学校を通じた防災活動を行った結果、これが世帯(子どもたちとその保護者・地域のおとなたち)の防災能力の習得・強化(キャパシティビルディング)につながりました。世帯を中心にした働きをすると同時に、地域行政や防災管理員会が地域での防災において役割を担うこと、そして若い世代の参画も持続的な取り組みには重要です。前事業の学びはこのコイラ郡でも活かし、地域の地理的な特徴を調査し事業内容を検討しました 。

復旧・復興が進むコイラ郡の様子。続きはこちらをご覧ください。