2018年11月上旬、ミャンマー難民支援に携わる職員を対象とした研修を実施するため、事務局次長の藤﨑文子が3回目の現地訪問をしました。難民の大量流入から約1年経過した現場や難民支援の状況、シャプラニールが実施した研修とその中で感じたことを報告(最終回)します。

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現場体験と結びついた深い学び(研修のまとめ)

全2回開催した3日間の研修には、バングラデシュの複数のNGOで働く20名が参加しました。20歳前後から40代までと年齢は幅広い一方で、女性が多くなりました。高校卒業程度の人が中心であったため、抽象的な概念の説明には事例を多用、エクササイズなどを使って体験することで、自らの体験に引き付けて理解できるよう工夫をしました。相手が落ち込んでいる、辛そうなときは無理強いをしないこと、相手の話を共感して聞くことなど、ロールプレイなどを取り入れて伝えていきました。

01DSC02250_web受講者と講師によるロールプレイ(2018年11月)

研修の中に、受講者が自分で描いた絵を紹介する印象的なワークショップがありました。花や木、ろうそくなど思い思いの絵を掲げ、説明していきます。19歳の女性は、蝶の絵を描きこう話しました。「蝶はその美しさで人々を楽しませます。花や木の間を飛び回り、蜜を吸い、それを人々に分け与えます。私も苦しい思いをしているロヒンギャの人たちに、(蝶のように)楽しみや知識を与えられる人でありたいです」人々の憩う木陰を提供する大きな木を描いた人、周辺を明るく照らすろうそくの絵を描いた人など、それぞれ参加者の人となりを表していて発される言葉の深さに感銘を受けました。

02P1130145_web相手が引いた線を使って、絵を完成させる二人一組で行うワークの様子(2018年11月)

15年前に行ったカウンセリング研修
実はこの研修には「お手本」があります。シャプラニールが2000年から2011年まで実施していたストリートチルドレンの支援プロジェクトで、パートナー団体の職員を対象に2004年に行ったカウンセリング研修です。路上で生活する子どもたちの「聞こえない声」に耳を傾け、子どもに向き合うこと、おとなが持っている「力」を子どもたちに渡していくかということなどを受講者は1週間をかけて学びました。研修を受けた職員はその後自信をもって職務にあたるようになったと駐在員からの報告もあり、その2年後にはパートナー団体の要請でフォローアップのための研修も実施したほどのインパクトがありました。

03DSC02255_web体を使ったワークでは、みんなが笑顔に(2018年11月)

パートナーシップの在り方を模索していた当時、パートナー団体の職員に専門性の高い研修を提供できたことで、シャプラニールがバングラデシュやネパールのNGOに提供できることがあると実感できました。また、当時の研修に中心的に携わっていたシャプラニールのバングラデシュ人職員のサイフル(定年により現在は退職されました)が、今回も通訳を買って出てくれたことも、これまでバングラデシュで行ってきたことが今日につながっていると改めて感じています。

04P1130138_web研修3日目にはこんなに仲良くなりました。(2018年11月)

シャプラニールの今後の活動
さて、話をロヒンギャ支援に戻します。今回の研修では、受講者の反応もよく、現場のニーズもあると確認できました。またロヒンギャ支援の現場において心のケアが十分に取りあげられていない状況のなかで、シャプラニールが取り組む意義があるという認識です。一方で一回に受講できるのは10名前後。90万人を超えるロヒンギャを支援する現場職員の数が何人かわかりませんが、大海の一滴です。研修の成果を出すには、フォローアップを含めた研修を回数を増やして実施する、単純化できる部分はモジュール化して養成した講師に研修を任せるなどの工夫が必要となります。

ロヒンギャ難民を取り巻く環境が流動的なところも注意が必要です。昨年、研修を実施していた最中に、ロヒンギャ難民帰還を開始するという突然のバングラデシュ政府のアナウンスがありました。難民自身と国連機関の反対によって半日で撤回されましたが、キャンプの中は一時緊張した空気に包まれました。国際政治がからんだこの問題は、いつどのような展開をみせるか誰にもわかりません。その中で半年や1年先を見越した計画を立てることが難しい点も、これまでの災害支援などとは異なっています。ただ、なにもやらずにいるよりも、今できることを全力で考えて実施する。そんな気持ちで次の計画を立てているところです。ウェブサイトでも紹介していきますので、どうぞ引き続きのご支援をお願いします。

▼視察させてもらったアメリカNGOの活動
80名のロヒンギャボランティアが隣人のために活動をしている職員と(2018年11月)
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▼おまけ
研修会場までのドライブでは、海で漁をする船が見られます。(2018年11月)
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以上で3回に渡った、ミャンマー難民支援に携わる職員を対象とした研修について、事務局次長の藤﨑文子の訪問レポートを終了します。

シャプラニールでは現在も、今回の現地視察で得た最新情報をもとに、政府や国際機関などの大きな支援から「取り残された人々」を対象に新たな支援を検討しています。
2017年11月23日、ミャンマー、バングラデシュの両政府はロヒンギャ難民のミャンマー帰還に向けた合意書に署名しました。しかしながら、具体的な帰還終了の時期は定まっておらず、ロヒンギャ難民問題は長期化することが予想され、国際社会による継続的な支援が必要とされています。どうか更なるご支援をお願いいたします。

引き続き、皆様からのロヒンギャ難民緊急救援募金および情報シェアのご協力をお願いします。

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