専門家にインタビュー-01

「海外にルーツをもつ子ども」とは国籍に関わらず、両親またはそのどちらかが外国出身者である子どものことです。

10年以上前から海外にルーツをもつ子どもたちへの支援に取り組む田中宝紀さんに、日本で暮らす海外にルーツをもつ子どもたちが直面している問題や、多くの子どもたちの成長を支えるYSCグローバル・スクールでのご活動、共生社会実現に向けて私たち市民ができることなどについて伺いました。

PROFILE

田中宝紀(たなか・いき)
1979年東京都生まれ。16才で単身フィリピンのハイスクールに留学。フィリピンの子ども支援NGOを経て2010年より現職。海外にルーツを持つ子どもたちのための専門家による教育支援事業『YSCグローバル・スクール』を運営する他、日本語を母語としない若者の自立就労支援に取り組む。Yahoo!ニュース個人オーサー、日本国際交流センター「外国人材の受入れに関する円卓会議」委員、2021年度文部科学省「外国人学校の保健衛生環境に係る有識者会議」委員、「中央教育審議会」臨時委員(初等中等教育分科会)他。著書『海外ルーツの子ども支援  言葉・文化・制度を超えて共生へ』(2021年、青弓社)

【CHAPTER.1】 海外にルーツを持つ子どもたちを取り巻く問題
【CHAPTER.2】 子どもたちを支える「YSCグローバル・スクール」の取り組み
【CHAPTER.3】 子どもたちの可能性を広げられる社会にむけて

 

CHAPTER.1 海外にルーツを持つ子どもたちを取り巻く問題

すべての子どもたちが日本語教育を十分に受けられているわけではない

2018年度の文部科学省の調査によると、現在日本の小中等教育学校の中には日本語指導が必要な海外にルーツを持つ子どもたちが5万1000人います。そのうち、地域に外国出身者があまり住んでいない「散在地域」といわれる地域を中心に1万人以上が学校で何も支援を受けることができないという状況にあります。

専門家にインタビュー-04

こうした自治体間の格差であったり、周辺に支援のリソースがあるかによって、子どもたちの日本語教育機会へのアクセスに差が出てしまっています。

 

「日本語の力」が子どもたちのライフキャリアに大きく影響する

日本語がわからないまま、ただ教室で座っているだけという状態に耐えられなくて不登校になったり、日本語を学んでいる間、「算数」「社会」などほかの教科の勉強が進まないことが原因で、基本的な学習の空白が広がっていくと、中学校3年生など進路を選択するような段階になって受験に必要な学力が身に付いていない状態になります。また、そもそも来日したのが中学に入ってからで日本語力自体が追いつかなかったといった状況もあって、その結果、海外ルーツの子どもたちの高校進学率は推計70%程度にとどまると言われています。

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ただ「日本語がわからない」状態をそのままにしておくことが、海外ルーツの子どもの人生にとって長期的な、深刻な影響を及ぼしてしまっています。

国勢調査ベースで見ても、外国籍の15歳から19歳の方のうち、学校に通わず、仕事もしてないという方の数も日本国籍の方の2倍以上に上っていますし、そもそもどのような状況にあるか自体が把握できない”労働力状態不詳”の方に至っては日本国籍の方の4倍に上り、「教育と就労の外側」で多くの海外ルーツの子どもたち、若者たちが苦しんでいるという状況が見られます。

 

生活の中でも言語による問題が

生活において、学校や自治体、住んでいる市町村が発信している情報って生命線ですよね。でも親御さんも日本語があまりわからないという場合、そういった情報が把握できず、トラブルが起きることもあります。例えば、昨年のCOVID-19の影響による一斉休校の際に、分散登校日が把握できなかったり、中には卒業式がなくなったことが伝わっておらず、当日学校に行ってしまったということが起きていました。

また、子どもだけが日本語ができるという家庭も結構多くあります。「ヤングケアラー(注1)」のカテゴリの中にも「家族のために通訳をする」というカテゴリがありますが、そういった子どもたちは学校を休んで、親と一緒に役所に行き、書類を書かなければならなかったり、行政の担当者の話を聞いて、母語に訳してあげないといけない場面が出てきます。また、医療の場面でも重要な親の病状についての告知を子どもがしなくてはならなくて、精神的に大きな負担になってしまうなどの状況は珍しくありません。

(注1)ヤングケアラー:本来大人が担うと想定されている家事や家族の世話などを日常的に行っていることにより、子ども自身がやりたいことができないなど、子ども自身の権利が守られていないと思われる子ども

ボランティアによって支えられてきた支援現場のCOVID-19による影響

本来であれば、学校の外側にセーフティーネットが張られていて教育や就労におけるその人にとって必要なサポートが提供されていかなければなりませんが、海外ルーツの子どもの支援分野についてはその大半を、無償でボランティアの方が実施しているというのが現状なんです。こうしたボランティアの方々の多くが、20年、30年と、ご自身が高齢になっても子どもたちを支えようと、善意で活動を続けています。しかし、ボランティアの方々が高齢化しているという状況の中で、COVID-19の感染リスクへの不安から活動が再開できていなかったり、オンライン化への対応が難しくなっているという実態があります。もともと少なかった海外ルーツの子どもたちへの支援が一層減少してしまっている状態です。

公式サイトには「ストップいじめ!ナビいますぐ役立つ脱出策」など大人・子ども向けに役立つ情報を掲載されている。

公民館で地域のボランティアが運営する日本語教室の様子(筆者撮影)
報酬をもらって「仕事」として日本語教育に携わっている日本語教師の割合は約41%、残る59%は無報酬(交通費等の実費支給は報酬とみなさない)のボランティアが担っている。

ドロップアウトしやすい、でもセーフティーネットがない

高校に行けなかった、中退した、就職したけどもうやめてしまったという状況の場合、日本人の方に対しては自立就労支援事業などがいろんな地域で展開されています。でも、若者の支援を担うNPOでは日本語がわからない海外ルーツの若者を受け入れるということはこれまであまり行われてこなかったため、15歳以上になって社会的な所属がない方への支援はほとんど無いに等しいような状況が続いています。一旦教育と就労の外側に落ちてしまった場合にセーフティーネットの網の目が大きすぎてほとんどの方がこぼれ落ちてしまうという状況になっています。

国も2018年以降、支援や施策を増やしていますが、なかなか追いついていません。COVID-19の感染拡大状況が落ち着いてきてこれから改めて国境が開くとなると、入国を待っていた子ども、生活者の方が一気に流入してくるのではないかと思っていて、現状の支援体制がもつのかどうか今強く懸念してるところです。

公式サイトには「ストップいじめ!ナビいますぐ役立つ脱出策」など大人・子ども向けに役立つ情報を掲載されている。

COVID-19の影響で原則停止していた海外からの入国。在留資格を持ちながら入国できない人は37万人ほどいる。

 

>>>【NEXT】CHAPTER.2 子どもたちを支えるYSCグローバル・スクールの取り組み

 
 
 

【CHAPTER.1】 海外にルーツを持つ子どもたちを取り巻く問題
【CHAPTER.2】 子どもたちを支える「YSCグローバル・スクール」の取り組み
【CHAPTER.3】 子どもたちの可能性を広げられる社会にむけて


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