「バングラデシュの取り残された子どもたちへの初等教育支援」の事業地を職員の髙階が訪問しました。今回は事業地のひとつ、「先住民が多く住む地域」の様子をお伝えします。

先住民サンタルの歓迎セレモニー

活動地のひとつ、バングラデシュ北部のディナジプール県は、先住民であるサンタルの人々が暮らしている地域です。バングラデシュは人口の多くがベンガル人ですが、30~40ほどの民族グループが存在し、約200万人の先住民の人々が生活していると言われています。そのうちサンタルはバングラデシュとインドにまたがる地域に居住していて、言語や宗教など様々な文化がバングラデシュのマジョリティとは異なります。
バングラデシュで主に話されるのはベンガル語ですが、サンタルの人々が話すのはサンタル語。文法や語彙が全く異なる言葉です。例えば、ベンガル語での「こんにちは」は「アッサラームアライクム」または「ノモシュカール」ですが、サンタル語では「ジョハール」、全く違います。教育の現場では、子どもたちが家庭ではサンタル語、学校教育はベンガル語という異なる言語を用いるために、授業についていくことができず退学してしまったり、教員側もベンガル人が多いためサンタル語がわからずに子どもたちへの理解浸透を図ることが難しいといった問題もあります。

また、農業が盛んなこの地域において、地主であるベンガル人豪農と、小作人であるサンタルの人々という構造が長年にわたって固定化し、一種の差別につながってきたという経緯もあります。そのため、サンタルの人々は十分な教育を受けることができず、自らのアイデンティティにも誇りを持つことができないという状況が続いていました。

活動地の子どもたちと共に
コミュニティ・ラーニングセンター。ここで学校の補助教育やサンタルの文化を学ぶ
子どもたちがサンタルの歌を披露してくれた。
自らのアイデンティティに自信を持つことができるようになっている。

しかしシャプラニールの活動を通して、子どもたちのあいだにポジティブな行動変容が起きています。学校ではサンタルの子どもたちとベンガル人の子どもたちで分かれて席に座ったり遊んでいたりしたのが、今では同じグループで行動するようになったり。サンタルの子どもたちの家にベンガル人の子どもが遊びに行くような交流も生まれています。民族間で分断が生まれていたのが、同じ地域の仲間として接することができるようになってきました。

変化は子どもたちだけではありません。学校の先生もサンタルの言葉を少しずつ覚えるようになってきたり、サンタル出身の親も公立学校に通わせることへの抵抗が少なくなってきたり、また子どもたちが学校教育の補助として学ぶコミュニティ・ラーニングセンターでの活動を助ける役割(エデュケーション・ファシリテーター)にサンタル出身の大学生が加わっていたりと、地域の中でのサンタルに対する意識が、サンタルとベンガル人双方にとって良い方向に変化していることを感じ取ることができます。

「学校に通う」ということのハードルとなるものごとをひとつずつ変えていき、学校や親だけではなく、地域ぐるみで子どもたちの学びの機会を作っていく。良い循環が生まれている現状を見て取ることができました。

コミュニケーショングループ
髙階悠輔