第9回 ハティア島に魅せられて(東京外国語大学教員 日下部尚徳さん)

0

リレーエッセイ「私の好きなバングラデシュ」

私にとってバングラデシュは、第二の故郷である。
正確に言えば、ベンガル湾に浮かぶ島、ハティア島が、私にとって日本以外で最も長く滞在した特別な場所である。

船内の物売り

船の物売り

ダッカから船で16時間。これまでに何十往復としてきた。
ハティア島行きの大型船は、夕方6時にダッカの港ショドルガットを出発し、海に向かって下る。
渋滞で乗り遅れないよう余裕をもって出るため、だいたい5時には港について、船の中をぶらぶらしている。
船中では、果物やお菓子、軽食、土産物などを扱う物売りがひっきりなしにやってくる。
その中で小腹が空いたときに決まって手がのびてしまうのが、ゆで卵だ。このゆで卵、なぜだか大変おいしい。

船で買い食いするなと、ベンガル人の友人には説教されるが、これだけはどうしてもやめられない。
しかし、自分の学生には、船で買い食いするなと口を酸っぱくしていう。

ショドルガットの夕暮れ

ショドルガットの夕暮れ

そうこうしているうちに、日が落ち始め、出発の時刻となる。
夕暮れ時、夕日に照らされて、あたりは一面真っ赤になる。
そして、赤色に染まった大河には、何百もの渡し舟が、まるで木の葉のように浮かんでいる。
この光景が、ダッカで一番好きだ。

 

船は南へ、南へと舵を取る。船先のスペースに陣取って、岸辺や他船を眺めていると、かならず誰かが手を振ってくる。
自分にむけられたものなのか定かではないが、とりあえず振り返しておく。
勘違いだとしても、その何倍も返してくれるのがバングラデシュだ。

それにも飽きると、船上のベンチにすわってチャイを飲む。そして、ベンガル人の乗客に囲まれる。

どこからきた? 結婚しているのか? 兄弟はいるのか? 何の仕事をしているんだ?

いつもの質問攻めが始まる。
あまりにも毎回同じ質問をされるので、答えをシャツに書いておこうかと思ったこともあるが、彼らは世間話そのものを楽しみたいのだから、そのようなことをしても話のネタを提供するだけである。

さすがに会話に疲れると、個室に逃げ込む。
しかし、1畳ほどのベッドがあるだけの小部屋は、夏場はうだるように暑い。当然エアコンなどなく、扇風機も熱風を送るだけの代物であるから、結局また外にでることになる。
そしてまた囲まれる。
これらを3回ほど繰り返すとだいぶ涼しくなり、なんとか室内で寝られるようになる。

明け方、何度か船が大きく揺れる。
いくつかの港に立ち寄っているのだが、粘土質の岸壁に船先を突っ込むので、結構な衝撃がきて目が覚める。仕方がないので、起きて荷運びする人びとを眺める。港の食堂からは食欲をそそられる豆スープのにおいが漂ってくる。たまらず下船して、朝食をとる。
しかし、自分の学生には、乗り遅れては大変なので途中の港で降りてはいけないと、口を酸っぱくしていう。

一面の緑と青い空

一面の緑と青い空

そして、朝の10時、ハティア島に到着する。
港は人でごった返しているが、誰かしらの友人が迎えにきてくれる。
仕事をサボって顔を見に来たといったほうが正しいかもしれない。
ベビータクシーで目的地に向かうことを勧められるが、丁重に断ってリキシャ引きと値段交渉をする。

 

交渉が成立すると、一段高いところに設置されたリキシャの椅子に飛び乗り、落ちないように両足を踏ん張る。
まわりには、見渡す限りの緑の田んぼが広がる。
途中通り過ぎる村々では、鶏が走り回り、山羊が放し飼いになっている。
小さな子どもたちが、通り過ぎるたびに手を振ってくれる。

リキシャ引きと世間話をしながら目的地へと向かう

リキシャ引きと世間話をしながら目的地へと向かう

あたりには、リキシャ引きがベダルをこぐ音しかない。
ダッカでは絶対感じることのできない、さわやかな風が吹き抜ける。
あまりの心地よさにうつらうつらしていると、段差の衝撃で落ちそうになり、リキシャ引きに笑われる。
そして、ここでも世間話がはじまる。他愛のない話を、半分しか働いていない頭で。

景気はどう? 日本に連れて行ってくれないか? 魚の値段高くない? 今年のマンゴーは豊作? 最近うまい茶屋はどこ? 子どもは何歳? 家族は元気か?・・・・・

ここが、バングラデシュで一番好きな場所、ハティア島である。

ハティア島の風景

ハティア島の風景

プロフィール<プロフィール>
日下部尚徳(くさかべ・なおのり)
東京外国語大学教員
シャプラニール主催の第1回ユースフォーラムに参加したのがきっかけでバングラデシュに関心を持つ。以降、18年にわたって中・高・大学生を対象とした開発教育・異文化理解教育イベントの運営に携わる。バングラデシュへは、貧困や災害に関する調査のため年に数回訪れる。

<シャプラニールとの関わり>
2012年より理事

test

 

Share on FacebookShare on Google+Tweet about this on TwitterEmail this to someone

コメント

CAPTCHA