シャプラニールの活動にさまざまな形でつながりのある方、
国際協力、社会貢献などの分野で活躍されている方に、その思いを伺っています。


縦と横につながる思い

タレント・藤岡みなみさん

2013年、藤岡みなみさんはシャプラニールの事業地バングラデシュ、ネパールの訪問や関係者への聞き取りをもとに『シャプラニール流=人生を変える働き方(出版/エスプレ)』を執筆されました。企業とは異なる働き方をするシャプラニールにスポットをあて、国際協力を自分ごととして考える視線での取材を通じて、わかりやすく紹介してくれました。あの著作から6年。藤岡さんがあの旅でどのような変化をし、そしてどのように今につながっているのかお話を伺いました。

インタビュー 宮原麻季(クラフトリンクグループ)


シャプラニールの「人」との 向き合い方から学んだこと
宮原
:藤岡さんは2013年にバングラデシュ、ネパールに当時の事務局長の筒井さんと一緒に訪問されましたよね。「シャプラニールの40年をたどる旅」というようなテーマだったかと思います。どんなことを鮮明に覚えていますか?

藤岡:「国際協力」についてあまりよく知らない私でしたが、一番印象的だったのはシャプラニールのスタッフも現地の人も誰一人として「ベンガル人」「ネパール人」「日本人」のような国とか肩書を背負わずにコミュニケーションをしているのが印象的でした。国際協力って「海外志向の人!」という意識があったのですが、「出会ったから」というとてもシンプルな理由で国の違いなどに距離を感じていないのがシャプラニールの人たちだったいう気づきがありました。ですので、あの時の旅は「ご縁」がキーワードだと思っています。
vol284_fujioka01

宮原:現地の人との出会いをきっかけに、その国の文化や風習、慣習などを吸収していくと思うんです。一方で、藤岡さんも国内のロケでいろいろな人に会ってお話を聞くようなお仕事を重ねられてきましたね。

藤岡:そうですね。国内ロケでその地域に暮らしている人の話を聞く仕事がとても多いんです。シャプラニールのあの旅の後は、ロケで出会う人を職業や年齢のような記号でみるのではなくて、人間同士として出会えるようになったと思います。

宮原:そうすることで、相手から出てくる答えは変わりましたか?

藤岡:はい、確実に変わりましたね。シャプラニールの旅の前に元代表理事の中田豊一さんが書かれた『途上国の人々との話し方(出版/みずのわ出版)』を読みました。あの本に書かれていることは、私の仕事で本当に役に立っています。途上国の人々に限らず、初めて会う人と話をする時に、具体的に質問をするようにすると、その人の生活が見えてくるんです。今もそんなふうに話をするようにしています。「あなたにとって○○とは?」なんて漠然とした質問は絶対しないです。細部を意識するような質問、例えば「週末は何をやったの?」という切り口でその人の暮らしを知るような試みをしています。

宮原:私もシャプラニールに入職して6年。国際協力とはなんだ?という疑問を自分に投げかけながら過ごしてきましたが、結局、思いやりや、人と人とのつながりに尽きるのではないかと思います。そういう意味でみなみさんの仕事とも通じていますね。


1万年続いた縄文文化の 人々の暮らしを思う
宮原
:最近では縄文文化関係のお仕事もされていると聞きました。どのようなきっかけがあったのですか?

藤岡:2014年に縄文に出会いました。元々北海道での仕事が多かったのですが、北海道の唯一の国宝、「中空土偶」を見る機会があって、その時に縄文時代のこと知らないな、と思ったのが最初のきっかけでした。その後に国立博物館で縄文の遮光器土偶を見て、ビビッとくる自分がいて、最も面白いと感じたのは縄文土器でした。というのも、縄文の土器は弥生時代の土器と違って、機能性度外視。例えば火焔型土器。おこげがついていたということから煮炊きに使われていたという説もあるんです。実に使いにくそうですよね。そんな面倒くさいことをする人たちだけど、そこには効率性ではないところにも価値を見出しで、暮らしを楽しんでいたのではないかと感じるんです。

宮原:縄文時代って約8000年から1万年続いたと言われていますよね。そんなにも長い年月、人が機能性重視とは違うところに価値を置いて生活をしてきたのかもしれないですね。学校などでは縄文時代から弥生時代への変化は「進化」と教えられたような記憶があるけれど、その時代の人々の暮らしを思うというのはロマンでもありますね。vol284_fujioka04

藤岡:シャプラニールの旅に行くまでの私は生き急いでいるというか、無駄なことは省いて、自分がいかに向上するかとか、そういうことに一生懸命だったように思います。あの二カ国で過ごした時間、人びとの時間の使い方は「人の暮らし」を教えてくれたように思います。「自分、自分」という視点が横に広がり、遠いところでも人が生きているというのが実感できるようになったんだと思います。

縄文文化への興味は、私の中で視点が縦に深まっていくような感覚です。シャプラニールの旅で横に広がった視点を今度は時間軸を縦に伸ばしていくような感覚がしています。縄文文化いいですよ。たぶんバングラデシュやネパールが好きだったら、縄文文化も多分好きなはず。弥生時代は今の時代の経済の基本ができた時代と言われています。損得や計画性を考えるようになった時代ですね。縄文時代は自然次第っていうところに良さを感じますし、実は日本国内の地域によっても縄文文化は違うんです。2019年2月に「道南縄文応援大使」に任命されましたが、この仕事は外から地域の良さを伝えるような役割でもあると思います。


映画『タリナイ』の プロデュースを通じて伝えたいこと
宮原
:最近の藤岡さんはマーシャル諸島共和国を舞台にした映画『タリナイ』のプロデュースもされて活動の幅を広げていますよね。どのような経緯でプロデュースされたのですか?

藤岡:この映画の監督である大川史織さんは高校の同級生です。彼女は高校生の時に初めてマーシャル諸島共和国に行ったんですね。そこは日本が昔、委任統治していた土地で、統治時代のものや戦争の遺物が残っているこの国を舞台に映画を作りたいと考えていたんです。大川さんはそのために3年間現地に住んだりもしたのですが、なかなか作れずにいて。「映画はどうなったの?」としつこく聞いているうちに、私がプロデュースすることになりました。1年かけて編集して、音声の編集や英語字幕の調整などにまた1年。配給についても自分たちで勉強して、上映してくれる映画館を探すためにかけあって、最初の上映館では2週間だけのお話だったのですが、好評で2カ月上映されました。
vol284_fujioka03
宮原:戦後70年以上たつのに、いまだにマーシャルには戦争や当時の日本人が生きた痕跡が残っているようですね。

藤岡:この映画に登場する佐藤さんはお父様をマーシャルで亡くされています。お父様が最後を過ごした土地を訪問する旅を記録する中で、マーシャルに残る戦争の爪痕やマーシャル人の日本への思いなどを描いています。一方で、日本人は驚くくらいマーシャル諸島共和国のことを知らない。なんで私たちはマーシャルを知らないんだろうと。私たちは戦争を知らない世代です。戦争を知ろうと思ってもその思いの馳せ方が正直わからない。この映画で描かれているのは遠い記憶だけれど現代とつながっています。そしてそれはネパールやバングラデシュで私が感じた横の広がりと通じる視点があると思います。この映画が思いを馳せるきっかけになってくれればと思います。

宮原:この映画は戦時中の悲劇にフォーカスするにとどまらず、今の私たちに問題提起するような内容でもありますね。

藤岡:マーシャル人に見せても恥ずかしくないものを作りたいと思いながら映画を作っていました。多分、マーシャルでお父様を亡くされた佐藤さんのみを主人公にして、お父さんに会いに行くだけというストーリーだとわかりやすいと思うんです。でもそうしてしまうと、日本向けの視点になってしまうし、感動してくれっていうポイントを作ったら受け身になってしまうと思うんです。そうではなくて、見た人がそれぞれに答えをみつけて何かのつながりにしてほしいと思いますね。

日本での上映会の反応をマーシャルの人に伝えて、またマーシャルでの上映会の反応を日本に伝えてということをやりたいと思っています。そしてこれから若者が関係を作って行きたいと思えるようになったらいいと思っています。

宮原:双方向の視点を映画に取り込んだ藤岡さんの視点は素晴らしいですね。映画の中では日本の言葉がマーシャルの生活にだいぶ残っていることにも着目しているように感じますがいかがですか?

藤岡:かつて日本の委任統治下にあって、日本人が使っていた言葉や歌が今もマーシャルに残っています。例えば2階以上の建物は3階建てでも「ニカイ」と言ったり、刺身のことは「チャチミ」と言ったりするそうです。映画のタイトルになっている『タリナイtarinae』はマーシャル語で『戦争』とか『ケンカ』という意味なんです。由来は定かではないですが、戦時中日本人が「足りない、足りない」と言っていたんじゃないかなとも言われています。今でもマーシャルの人は「昨日お母さんと『タリナイ』しちゃったんだよねー」なんて会話が日常生活の中に入ってきます。

宮原:戦争という言葉が「タリナイ」というのは、何ともシニカルですね。きっと当時物資が不足している状況で、人びとが口にしていたのではないかと想像ができますね。

藤岡:物資以外にも精神的な充足感とかも不足していたのかもしれない。「足りないことが戦争」そんな風にも感じられます。この映画で戦争をどう考えるのか、見た人に思いを馳せてほしいと思っています。ナレーションや説明が多くないので分かりやすい映画ではないと思います。それにもかかわらず、かなり反応がいいです。ただ、映画館に来てもらうまでは難しい。見てもらえば響くんですけどね。

宮原:少しずつでいいので、見てくれる人が増えていけばいいですね。

これからの「わたしの役割」
宮原:今後はどのような活動をしていきたいと計画されていますか?

藤岡:シャプラニールの旅の時から思ったことですが、何か物事のハードルを下げるような役割を担っていきたいと思っています。まだ参加していない人に向けて、扉を開く係といいますか。難しそうなこととか、とっつきにくいことの入り口を作るような、そんな役割が担えると思っています。

会報「南の風」284号掲載(2019年6月発行)
藤岡みなみさんのインタビュー掲載号をご購入はこちらから

 

vol284_fujioka_koukiインタビューを終えて
興味の範囲が広い方だと思っていましたが、縄文土器や土偶の正式名称がスラスラ出てくるのには舌を巻きつつ、藤岡さんのお話を聞くにつれ縄文文化に興味を惹かれて、本を購入してしまいました。さっそく難しそうに見えることのハードルを下げてくださいました。国際協力を広めていくには「知る」「伝える」「参加する」という三つの切り口が大切だと思っています。藤岡さんのように軽やかに行動変容を促せ「伝える」力を養っていくというのが今後の私の目標になりそうです。映画『タリナイ』のお話を伺っているときに、その映画の持つ力を感じました。真摯に自分で考えて、平和や戦争について向き合いたいという思いを持っている人は多いのではないでしょうか。そのような意味で必見の映画なのだと思います。


PROFILE
藤岡みなみ(ふじおか・みなみ)
1988年生まれ。タレント、エッセイスト。 主な出演作品はNHK『穴場ハンター』、『テレビで中国語』、STVラジオ『藤岡みなみの おささらナイト』など。2015年『ラジオ番組表』好きなラジオDJランキングAM部門第1位。北海道で中空土偶を見たことがきっかけで縄文時代にめざめ、道南縄文応援大使に任命される。2019年からタイムトラベル専門書店utoutoを開始。 趣味はDIY、特技はスプーン曲げ。