シャプラニールの活動にさまざまな形でつながりのある方、
国際協力、社会貢献などの分野で活躍されている方に、その思いを伺っています。


「ファッション」から 世界を変える

モデル・俳優・ファッションプランナー 谷 裕介さん

最近は雑誌やSNSなどのメディアを介 して「エシカル」という言葉がファッションに 敏感な若い世代に広がりをみせています。今回は、そんな若い世代でありファッションや消費の在り方を発信する谷裕介さんにお話を伺いました。

谷さんはバングラデシュを訪れたことがきっかけとなり、自らモデルや俳優という人の目に触れる職業を選び、ファッションを切り口として持続可能な生産と消費の在り方を提起していきたいと活動しています。

インタビュー/野口歩

バングラデシュへいくきっかけとなったシャツを手にする谷さん

バングラデシュへ行くきっかけとなったシャツを手にする谷さん

きっかけは一枚のシャツ

野口:谷さんがバングラデシュを訪れた経緯や、現在のお仕事をするようになったいきさつをお聞かせください。

:大学院生の時に、ファストファッションの 生産過程について研究をしている際に訪れたの がバングラデシュでした。そのきっかけになっ たのは一枚のシャツでした。
私は服が好きで、 そのシャツを古着屋さんで見つけて一生懸命アルバイトをして買ったのですが、アメリカのブランドなのにタグに「メイド イン バングラデシュ」と書いてあったんです。バングラデシュ といえばカレーのイメージくらいで、どうして アメリカの企業がバングラデシュで洋服を作っているのか疑問に感じ、すぐに航空券を購入してバングラデシュへ向かいました。
そこで見聞きしたことは自分の人生にとって、大きなインパ クトをもたらしました。バングラデシュ社会が 抱えるさまざまな問題を目にして、自分は課題 を解決する側の人間になりたい、より多くの人 に影響を与えられる人間になりたいと思いまし た。それならば自分が得意とするファッション の分野でその夢を叶えたいと思い、今奮闘して いるところです。

ファストファッション 縫製工場の実態

野口:大学院の研究でファストファッションの 縫製工場の実態調査をされたとお聞きしました が、印象的なことはありましたか?
:実際のところ、縫製工場の内部を見せてもらうというのはなかなかOKが取れないのですが、父親から「交渉するときは食事の後が良 い」と聞いたのを思い出し、少し高級なビリヤニ(南アジアの炊き込みご飯)とコーラを手に工場へ向かいました。現地調査の前に途上国の縫製工場について勉強していたのですが、実際に行ってみると想像と違っていました。
整然と ミシンが何台も並び、椅子に座って作業してい る風景を思い描いていましたが、実際は地べたに座って裸足で作業している人もいました。工場内にある託児所も見学したのですが、日本のように保育士が常駐しているような環境ではな く、部屋に布団がいくつか敷いてあり、そこに子どもが寝ているという状況でした。また、私を案内してくれた人はシャツを着ていましたが、 作業している人は服の様子からあまり裕福ではないことがうかがえました。
このような状況の中でも、ファストファッションを作り出す企業 は安い値段でもクオリティは高いことを求めます。1ミリでもずれて型に合わないものは廃棄されてしまうため、私が調査したうちのひとつの工場の方は、そこまでのクオリティの物は作 れないと初めは注文を断っていたそうです。管理や雇用の面でも、2013年にバングラデ シュで起きた「ラナ・プラザ」ビルの崩壊事故 以降、分厚い書類を出さないと工場の運営ができないのでしんどい、と言っていました。

Creating Shared Value (CSV)*と フェアトレード、エシカル

野口:実際に縫製工場に足を運んで、想像して いたものとは違う実情を見てきたわけですが、 そこから新しく見えてきた課題やご自身の考え 方に変化はありましたか?
:企業が商品を縫製する現場まで、責任を持って安心安全な環境にできるかどうかが大きいと感じました。CSR(企業の社会的責任) といいますが、それは企業にとって当たり前のことだと思います。CSRの次のステップであるCSV(共通価値の創造)が必要だと強く感じました。
そして、これからは賃金が安いからではなく、バングラデシュで作ることに価値があるからという流れになっていく必要があると感じました。また、消費者の側から考えると、消費者がエ シカルやフェアトレードの衣服が良いものなのだというところまでで思考停止の状態になって しまうと、エシカルやフェアトレードがブラン ドのようになってしまいます。エシカルやフェ アトレードの衣服が、消費者に社会課題への気 付きを促す「入口」だとすれば、その「出口」 としてどのように課題を解決していくのかまで 消費者が考えなければ、持続的なものにならな いと研究を通じて感じました。*Creating Shared Value 共通価値の創造。社会的 課題の解決や企業による社会貢献が企業の経済的な 利潤追求にもなるという考え方。

vol286_curryko03大学院生時代、バングラデシュでのフィールドワークにて

「花も実も根の力」

野口:先ほど谷さんが言われた様に、消費者にフェアトレード商品に関心 を持つ「入口」を、そして課題解決に踏み出す 「出口」を示すということも含めてさらに良い ものをつくるためのアイデアなどありますか?また、谷さんの今後の展望や想いも合わせて お聞かせください。

:「世界一タグが長い服」などどうでしょう か。服の横に服が作られた場所や作った人のことが細かく書いてあり、見た目は同じ服でも一 つ一つの服のストーリーをタグにのせて伝える。 同じ服でもストーリーによって金額を変えてみ るのも面白いかもしれません。または服のストー リーを本にして、服を買うと本も付いてくるとか。

今後の展望ですが、私自身がこのようなことを行って、生産者の顔が見える衣服生産を実現させたいと考えています。また、中高生に向け て「ファッションから社会を考える機会」を広く提供したいということも考えています。大量生産、大量消費という大きな流れがある中で、 自分たちが着ている服の生産現場や手元に届くまでの過程を学ぶことで、自分の生活が多くの 人たちに依って成り立っていることを知り、社会の問題に目を向けるきっかけにしたいと思い ます。
私の信条として、「花も実も根の力」という 言葉があります。花が咲くのも、実がなるのも、まずは根の力が大事であるという考え方です。 土に埋もれていて、なかなか見えないけれども、根っこをおろそかにしないこと。ファッショ ンというくくりで例えるならば、生産現場はま さに根っこの部分だと考えています。だからこそ、生産現場をおろそかにしないことが実は本 当に大事なのだと。一人ひとりがファッション に対して主体的な意識や思想を持てるようにし たいので、私自身も発信し続けることが大切だと考えています。

会報「南の風」282号掲載(2018年12月発行)
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PROFILE
vol286_curryko谷 裕介(たに・ゆうすけ) 1993年石川県生まれ。モデル、俳優、 ファッションプランナー。モデル事務所FMG所属。大学在学中にミス・ユニ バースの男性版にあたるMr.Japan 石川県代表に選出。日本大学生物資 源科学部卒業、同大学院生物資源科 学研究科在学中にバングラデシュの 縫製工場におけるCSV創出に向けた バリューチェーンに関する実態調査を 実施、修士論文にまとめ修士課程を修了。2018年、石川県観光特使に選 ばれる。現在は俳優・モデル業を行いながら、ファッションプランナーとして ファッションから社会問題の解決を目指 し活動中。ブログ配信はこちら