《コラム》「分断を許さない」ジャーナリスト・キャスター・NPO法人8bitNews代表・堀潤さん

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この人に聞きたい

シャプラニールの活動にさまざまな形でつながりのある方、
国際協力、社会貢献などの分野で活躍されている方に、その思いを伺っています。


分断を許さない。

ジャーナリスト/キャスター/NPO法人8bitNews代表・堀潤さん

NHKを辞め、市民が発信者になるニュースメディアを立ち上げた堀潤さん。辺野古の土砂投入に反対するNGOの記者会見など、いろんな場面でお会いするのですが、今回初めて時間をかけてお話を伺うことができました。メディアの役割、NGOとの協働、分断をテーマに制作した映画について、熱く語っていただきました。

インタビュー/事務局長 小松 豊明


誰もが発信者に

小松:堀さんが現在どのような活動をされているのか、教えてください。

ひとことで言うと、「ジャーナリスト業」です。テレビやインターネット、ラジオ、出版、誰もが発信者に映画など、さまざまなメディアを総動員して、現場の情報を伝えています。2021年にNPO法人「8bitNews」を立ち上げ、市民投稿型のニュースサイトを運営しています。テレビや新聞などマスメディアだけではない、発信する場の確保と、発信者を育てるトレーニングを行っていて、これまでにおよそ500人の市民記者が登録し、発信しています。

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小松
:8bitNewsで取り上げる主な分野は決まっているのでしょうか。

ターゲットが決まっているわけではありません。原発の内部告発、住民運動や障害者の問題などさまざまで、当事者が発信者になることを重視しています。発信する人がプロで受信する人がアマチュア、といったイメージがあるかもしれませんが、みんなが何かしらの一次情報の主体であり専門家なんです。学生、店主、主婦、さまざまな人が発信するニュースから、それまで思いもしなかったテーマに気づかせてもらうことがあります。


メディアの役割が問われている

:現在、メディアの役割も問われつつあります。ニュースを取り上げて、それで終わり、でいいのか。最近はアメリカを中心にエンゲージメント・ジャーナリズムという考え方が出てきていて、今までは埋もれていた課題を発掘して提示するところで終わっていたものを、さらに課題解決を求めていこうという動きがあります。私がNHKを辞めた最大の理由はそこにあります。大規模なメディアでは、「そういえば、あのニュース、その後どうなったの?」という部分が忘れられてしまっています。災害報道ではそれが顕著で、「災害から〇年、〇カ月…」といった周年記事になってしまう。現場では毎日いろんなことが起きているのに。メジャーなニュースは大手に任せて、取り残された問題や人々に光を当てるのが私たちの役割だと思っています。

NGO、NPOの役割が大きい

小松:堀さんは、ずっとNGOやNPOに寄り添い、応援してくださっていますが、その背景にはどのような想いがあるのでしょうか。

取り残された課題に主体者として取り組み継続してきたのがNPOであり、その取り組みを伝えるのがメディアの役割ではないかと考えています。NPOの人たちは現場の人々との関係も出来ているので、一緒に活動することで現場にいる人たちと出会えるメリットもあります。また、一般市民が知るべき現場がそこにあります。例えば、南スーダンの反政府エリアでは、日本のODAを活用し手押しポンプの設置や学校建設などが行われているのですが、そうした事実は日本国民に共有されていません。一方、モザンビークではODA資金を使って行われている事業を住民が本当に望んでいるのか、という問題があります。途上国や紛争当事国におけるNGOの役割はとても大きく、それをぜひ知ってもらいたいと考えています。


海外のニュースが少ない

:日本では海外のニュースの割合が少ないと感じています。私たちの生活においては電気・ガス・食糧など全てが海外と地続きであり、もっと海外の問題に目を向けなければならないはずなのに、まるでメディアから鈍感になれと言われているようです。NHKのニュースキャスターだった時、中東の難民キャンプの話題をその日のトップニュースで取り上げることになっていたのですが、直前になって責任者の「大相撲の不祥事がトップだろう!」という一声で、差し替えられそうになったことがあります。

そういうことを続けていると、報道の仕方を間違えてしまうことになります。「香港の若者が暴徒化している」というニュースがあり、現地に行って取材してみると、逆に警察が暴走し、必要以上の攻撃が市民に対して仕掛けられていました。これまで日本が民主化にかかわってきたカンボジアのフン・セン政権による強権政治は、日本のテレビでは取り上げられません。国際的な報道写真展ではスーダンの内戦の様子を写した写真が大賞をとっているのに、日本でピンと来る人は少ない。このような状況を変えていかないと、SDGsのピントもずれていくだろうし、戦争の経験を踏まえた平和など日本の資産を食いつぶしてしまうのではないかと危惧しています。

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 分断の要因は「私」

小松:2020年に公開された映画『わたしは分断を許さない』を制作した想いをお聞かせください。

:現在、世界中でさまざまな分断が起きています。それはなぜなのか、政治や企業が悪いのだろうか、と取材し考えていくと、結論は「私」だな、ということになりました。私たちは知らないことばかりですが、それが人々を孤立させてしまうのだと実感したのです。

「知らない」ということにはいくつかのパターンがあります。一つは、気づいていたが見てこなかった。あるいは、気づいていたが大変そうなので目をそらした。さらに、存在すら気づかない。こうした無自覚や無知が人々の孤立を生んでいるのです。生きていくこと、日常が大変な中、それを責めることはできません。しかし、私たちの知らないところでルールがつくられていくのです。その原因は、「私」なんですね。それによって起こる分断を自分では許してはいけないと思うのです。


経済に負けないで

:こうした問題を考える上で重要なのはやはりお金だと思います。映画を作るきっかけの一つになった、福島の原発事故の賠償金をめぐる、いわゆる生業訴訟を傍聴したときのこと。郡山に避難した美容師が証言台に立ち被害を訴えたのに対し、弁護側が「それで、あなたは賠償金をいくらもらったんですか」と質問しました。美容師が「〇〇円です」と答えると、それを聞いていた同じ原告や傍聴席から「そんなにもらってるんだ…」という声が聞こえてきました。このような権力による分断がまかり通っている。報道では裁判でそんなやりとりが行われていることなど知る由もありません。

香港のデモを取材した際、一人の青年が「日本のみなさん、経済に負けないでください」と言いました。生活のため、経済成長のために大切なものを切り売りしていませんか、というメッセージでした。日本は第2次大戦に負けてアメリカのシステムをそのままインストールされ、経済優先の政策がとられてきました。自分で考え自分で決めること、人と交わり議論することが今の日本には求められていると思います。NGOの現場には、そういうプロセスが組み込まれていますよね。調査、聞き取り、対話というプロセスを通して人々が自分たちの力をつけていくことが大切にされています。慣習への疑問や内側からの変化を共に目指すことが、今日本で求められているのではないでしょうか。


分断をなくすために目をそらさない

小松:堀さんが考える、分断をなくすための答えは何でしょうか。
堀:自分が目をそらさないこと。自分の加害性に気づくこと。被害者として語るだけではなく、加害者としての気づきが必要です。大学の卒論は、ナチスと日本のプロパガンダをテーマに書きました。ドイツでは、公立の施設が街のど真ん中にあります。アメリカには、日本人の強制収容所の展示施設があるのです。国として、自分たちの加害性やデータを公開し共有している。日本は次も発展できる国になるために何をすべきか、今問われているのだと思います。
会報「南の会報「南の風」291号掲載(2021年3月発行)
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PROFILE 堀潤(ほり・じゅん)
2001年NHK入局。アナウンサーとして「ニュースウォッチ9」リポーター、「Bizスポ」キャスター等、報道番組を担当。2012年 市民ニュースサイト「8bitNews」を立ち上げる。2013年4月1日付でNHKを退局。現在は、ジャーナリスト、キャスターとして独自の取材や報道・情報番組、執筆など多岐に渡り活動。淑徳大学人文学部客員教授。早稲田大学科学知融合研究所招聘研究員。2020年、自身で監督、出演、制作を行った映画「わたしは分断を許さない」を公開。 

 

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