代表理事 村山真弓

見えてきた日本社会と児童労働の闇

2025年11月4日、東京都文京区の「マッサージ店」で12歳のタイ国籍少女に接客業務をさせたとして、労働基準法違反(最低年齢)違反、風営法違反(禁止区域営業)の疑いで同店の所有者が逮捕されました。報道によれば、少女は母親とともに6月末に来日、その後母親が出国し置き去りにされた後、性的サービスを伴う業務に従事させられていました。同容疑者については、12月8日には、客や自らにわいせつな行為をさせたとして児童福祉法(淫行させる行為)違反の疑いで東京地検に書類送検されました。 

この事件は、人身取引と児童労働という二つの問題について、日本社会での現状の取り組みがきわめて不十分であるという事実を私たちに突きつけています。 

シャプラニールの理事の一人で大東文化大国際関係学部特任教授の齋藤百合子さんは、大きな社会問題と認識されていた、1970 年代の日本人による海外での買春や、80年代後半のアジアから女性たちを連れてきて売春を強要させる状況が根絶されていないと述べ、摘発、保護・支援、防止の三つを要件とする包括的な人身取引禁止法が必要であると指摘しています。

また、今回、労働基準法違反とされた、児童労働(満15歳に達した日以後の最初の3月31日が終了しない児童を労働者として使用することは原則として禁止)については、日本における児童労働問題の広がりと深さが、東京出入国在留管理局に助けを求めた少女の行動によって白日のもとに晒されることになりました。人身取引と児童労働が交差するこうした問題は、海外からの移住者が増加している現在、今後より深刻化する可能性があります。 

活動地バングラデシュの児童労働

シャプラニールの活動地の一つバングラデシュにおいても、人身取引と児童労働については、さまざまな取り組みが行われているにもかかわらず、残念ながら改善に向かっているとは言えません。2025年11月に公表された調査結果によれば、児童(5~17歳)の9.2%(男子11%、女子4%)が経済活動に従事しており、この割合は2019年の6.8%から上昇しています。ここで言う経済活動とは、世帯員以外のために行う有償・無償の労働、家族の農場や事業のための労働、料理・掃除・子どもの世話等の家事を指しています。 

バングラデシュの労働法では、児童を14歳未満、若年者を14歳以上18歳未満と定め、児童(14歳未満)の就労禁止、若年者(14〜17歳)の就労制限・健康診断義務と「危険な労働」への従事を禁止しています。他方、12歳以上の児童については、健康や成長を阻害せず、教育に害を及ぼさない「軽微な労働」に従事することが例外的に認められています。しかしながら「軽微な労働」とは何を指すのか、具体的な定めはありません。 

柳下バングラデシュ駐在員が12月5日付のブログでお伝えした通り、11月17日に公示された2006年労働法改正令によって、シャプラニールが長年支援してきた「家事使用人」の仕事が労働法の対象として含まれることになりました。それは大きな一歩です。しかしまだ若年者の就労が禁止されている「危険な労働」(現在43種類)の中には含まれていません。

シャプラニールが運営する家事使用人として働く少女たちの支援センター

米国労働省国際労働局の報告書(2024年)でも、「児童が長時間労働で暴力や性的暴行に曝されていることで知られる家事使用人の労働」が「危険な労働」に含まれていないことが問題視されています。例外的に認められている「軽微な労働」に関しても、子どもたちが従事させられることの多いインフォーマルな労働のうち、家事使用人の仕事は最悪であると、現地社会でも認識されています。 

バングラデシュにおいて初の人身取引に関する全国調査(2022年公表)によれば、長期間に貧困は改善されつつあるとはいえ、とりわけ経済機会が限定的な農村部では貧困が人身取引のリスク要因として根強く存在しています。国内・越境人身取引の被害者はジェンダーや年齢を問いません。成人の監督下にない12歳くらいの子どもたちが、性的搾取、家事使用人、強制労働に従事させられるケースが増加していると報告書は述べています。 

バングラデシュは2000年に「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約」を批准し、2012年に最初の法律「人身取引防止・抑制法」を制定しています。 2025年11月27日、ムハンマド・ユヌス暫定政権は、現行法を国際基準に近づけ、より強力な取り組み、被害者の保護、違反者に対する法的措置の厳格化を目的として、人身取引・移住者密輸防止・抑制条例2025年 (案)を承認しました。政府のスポークスパーソンは、多くの国民、とりわけ女性、子どもが被害者となっている事実は、人道的悲劇であるばかりでなく、国家のイメージを深く損なうと述べています。近年、臓器移植を目的とする人身取引が増加しており、今回の条例案では、その対応も明記されたとのことです。 

児童労働問題を「他人事」にしない姿勢を

児童労働にしても人身取引にしても、タイの少女の事件が示すように、日本の私たちも深くかかわっている問題です。各国政府の取り組みの重要性は言うまでもありませんが、どこに住もうとも、他者に対する尊厳を持ち、心身ともに安心して生活のできる社会を創っていくことは、すべての国の市民が、共に取り組んで行かねば実現は不可能です。 

持続可能な開発目標SDGs8.7は、最悪の形態の児童労働を2025年までに根絶するとの目標を立てていました。2025年が終わろうとしている今、あらためて児童労働の根絶に思いを馳せる必要があるのではないでしょうか。

児童労働反対のレッドカードを掲げる家事使用人として働く少女たち