「道徳的な臆病者と独裁者たち、そして一人の勇士の、うそのような怪奇*な物語」

知り合いのご夫妻に誘われ、昨夜観劇した芝居の副題である。普段演劇など縁のない私だが、あらゆる意味で楽しめた。

                    <あらすじ>

The Dragonのプログラム.jpg3つの頭を持つ竜(ドラゴン)に400年に亘って支配されている小さな町があった。村人はドラゴンに途方もない量の食料と、毎年一人の女性を差し出す代わりに、別の独裁者から町が守られていると信じ、ドラゴンの専横に甘んじていた。そして今年はエルザという若い女性がその犠牲となることが決まっていた。

ある日この町にやってきた若い旅人がいた。町の人々にドラゴンを倒して新しい秩序をつくることを説いて回るが、ほとんどの反応は冷ややかだった。ドランゴンを倒したものの、自らも手負いとなった若者は村から姿を消してしまう。

そして1年後、かつてドラゴンに追従していた市長とその取り巻きが今では権力を欲しいままにしていた。

エルザと市長の息子と結婚当日、再び若者が戻ってくる。新しい権力者の圧制を許してはいけない、「一人ひとりが自らのなかにいるドラゴンを殺さなければいけない」と説く。その言葉に目覚めた人々が市長たちを追い出し、新しい町の歴史が始まる。

随所に現在のネパールの状況を風刺したような場面があるが、基本的には元の脚本に忠実に演じているとのこと。(原作はJewgenj Schwartz “The Dragon”インターネットで検索したが、残念ながら詳しいことは判らなかった)

民主化を求める市民の運動によって国王や王族の特権や、軍事の統帥権が廃止され、新しい一歩を踏み出そうとしているネパールだが、本当の民主主義を実現するためにはこれからが正念場である。これまでは何かうまく行かなければ国王や政党のせいにすれば良かったが、今度はそうはいかないはずだ。これからの変化に伴う痛みを自分のものとして一人ひとり受け止める覚悟ができているかどうか、それをこの芝居は問うているように感じた。

しかしすごいのは舞台として純粋に楽しめるという点だろう。芝居好きな仲間が集まって毎年一回公演を行っているというグループで、プロではないのだが演技は本当に圧巻だった。誘っていただいたことに感謝しつつ、来年もまた観にいきたいと今から楽しみにしている。

*原文ではgrotesqueである。辞書によると「(文芸)悲劇・喜劇が複雑にからみ合ったジャンル」となっている。

2006年5月21日