1年目の活動がCOVID-19 の感染拡大とロックダウンの時期と重なってしまった、チトワン郡での洪水防災事業。ロックダウンの影響は強かったですが、洪水を毎年起こす川のインフラ設置は急務でマディ市や住民からの要望も強かったため、感染対策を取りながら少しずつ進め、感染が下火になってロックダウンが解除された後に住民の防災能力強化の話し合いや研修を人数や回数を抑えながら行ってきました。そして、2021年2月に2年目の活動を開始しました。1年目になかなかできなかった住民の防災能力強化を注意深く進めていく必要があります。

3月に会ったバビタさん(仮名)は事業の対象河川であるラクタニ川の中流域に娘と息子と暮らしています。夫は軍人で単身赴任です。子どもが生まれる前は化粧品店を営み、今は娘を学校にスクーターで送り迎えする、なかなかアクティブな印象です。同じチトワン郡内から結婚してマディに移り住んで7年ですが、最初はもともと住んでいたところよりも地方であること、毎年洪水リスクがあることに慣れなかったそうです。

インタビュー中「お母さん、お母さん」とお母さん大好きな子どもたち

お母さん大好きな子どもたち。マスクを一瞬取ってパシャリ。

実は、彼女の家は現在の事業対象河川であるラクタニ川と2020年秋まで行っていた事業の対象河川であるバンダルムレ川の間にあります。以前は川と家の間にある田畑を静かに水が襲い、家の中にも水が流れ込み怖い思いをしていたそうですが、バンダルムレ川への対策で洪水への不安はだいぶ和らいだと言います。
また、現在の事業では雨期に洪水に備えた行動などをコミュニティラジオで呼びかけていますが、普段からラジオで情報を得ることが多い彼女もそこから情報を得ていることがわかりました。
「学校に行く時に川が増水していたら無理して渡らないように娘に言っています」、「学校の先生からも大雨が降った時に子どもの帰宅について電話をもらえるようになりました」。

家の敷地からバンダルムレ川方面を臨む

家の敷地からバンダルムレ川方面を臨む

ただ、貴重品の準備や避難場所の確認といった普段からの備えはしていないことがわかりました。また、今回一緒に話を聞いた、住民の防災への取り組みを流す現地職員のことを「名前は聞いたことがあるけど、会ったことはあったかしら?」と言われてしまいました。これには現地職員も苦い顔。「1年目、十分に住民の中に入っていけなかったからね。住民との関係づくりからしっかりしなくちゃ」と確認しました。

しかし、行き来が自由な隣国インドでCOVID-19 の感染者が急増する中でネパールでも緩やかに感染者が増えてきています。ネパール政府はロックダウンはまだ考えていないと言っていますが、もちろん激増すれば別でしょう。感染が再度拡大してきた時にできることを考えなくてはいけません。

ネパール事務所長 勝井裕美