バングラデシュ暫定政府は南西部12県のサイクロンの被災者のため、VGF(Vulnerable Group Feeding)カードを今月から大量に発行し、4ヶ月の間対象者に米の配給を行うと宣言していたのですが、早くも「VGFカード発行、遅延の見込み」という記事が12月1日の新聞に出ていました。理由は「被災者のリストづくりが終わっていないから」。いつものパターンですが、人々が飢えているときのこの非効率さ、できもしないことを簡単に宣言する浅はかさには本当にがっくり来ます。

だいたいこの国で人々のリストというものを政府がつくるのに最初に宣言された期限どおりにできた試しはありません。約4千人と発表されている死者の数にしても、遺体が確認された人の数だけです。戸籍や住民票のシステムのないこの国では、そもそもどこに何人住んでいたかという正確な数字もないのですから、そこから何人いなくなったかも正確にはわからないわけです。沿岸部の島などでは数百人単位で人が波にさらわれた、と言われているところがたくさんありますが、政府の発表する数字にいったいどこまで含まれているのか甚だ疑問です。(というより、含まれていないと思います。)

VGFカードは被災者の数だけ、270万だろうが何百万だろうが発行するよう政府の主席顧問に進言した、と軍のチーフは数日前の記者会見で勇ましく語っていましたが、現実はこの有様。リストが完成してから配布を始めるなどと言っていたら、配給開始は早くても半年後になってしまうでしょう。リストが未完成だろうがなんだろうが、把握できたところから配り始めればいいじゃないか、と思うのですが…。

サイクロンが襲った日から2週間以上たちましたが、今も被害状況が正確に把握されていないのは本当にもどかしい思いです。いまだに沿岸部の田んぼの中から遺体がみつかったりしていますし、大きな被害がありながらほとんど救援が届いていない場所もまだたくさんあります。

被害が甚大でメディアなどの報道も多かった地域では、救援も集中し(もちろんその中でも遠隔地など救援が十分届いていない場所は多くありますが)、食糧支援はそろそろ収束、あとは毛布や子どもの教科書、家の再建、そして生計確保のための長期的な支援…という方向になりつつありますが、こういった「取り残された地域」では、今でも「とにかくまず食糧支援」という状況なのです。

こういった大災害時の救援の大きな流れ、そのスピードや移り変わりの傾向が、ここにいるとだんだん見えてきます。救援は被害が甚大で人がたくさん死んだところ、マスコミに多くとりあげられたところ、それでいて比較的アクセスがよく、通信手段の回復が早かったところにどっと流れるのです。また、国際機関などの多くは政府の発表する被害報告を元に救援内容を決めるので、政府発表自体が間違っていたり、漏れがあったりすると、救援も漏れてしまいます。

出生登録や住民登録といったシステムをこの国がきちんと整えることの重要性を災害時にあらためて感じます。その「画期的」手始めとして、暫定政権が進めている投票者リストと写真入り投票者カードづくりも、いつまでかかるのか…。このサイクロンで来年予定されていた総選挙もまた遅れるかもしれません。