10月1日は国際高齢者デー(International Day of Older Persons)。シャプラニールはマニックゴンジ県で活動するパートナー団体、STEPと協働して、3年ほど前から毎年この日にちなんで高齢者の集いを開催しています。今年は10月前半にイスラム教のイード休みやヒンドゥー教のドゥルガー・プジャ休みが続いたので、ちょっと遅れて10月20日の開催となりました。

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写真はポイラ事務所の庭にテントを張った会場に集まったお年寄りたち。150人ぐらいはいたでしょうか。前のほうに女性たち、後ろのほうに男性たちが座っています。おばあちゃん優勢。

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ポイラ事務所近くのテロスリー村の少女グループのメンバーも、お年寄りに「国際高齢者デー STEP高齢者集会」と書かれたキャップをかぶせてあげたり、参加者名簿をつくったり、ボランティアとして甲斐甲斐しくお手伝い。

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集いはまず、「国際高齢者デー」と書かれた垂れ幕を持っての行進からスタート。ポイラ事務所から近所のテロスリー小学校までの短い距離の往復ですが、数十人のお年寄りが参加しました。この日は日中の最高気温が30度を超える暑さだったので、お年寄りにはなかなか厳しいものがありましたが、参加した人は楽しんでいたようです。歩くのがしんどい人は会場でお留守番。

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行進終了後は会場の前方に用意したマイクの前に披露したい芸がある人、話したいことがある人が次々と出てきて、文化プログラム開始。

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ハルモニウムを弾きながら自慢の喉を披露する人あり…

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訥々と語るおばあちゃんあり…

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昔、村芝居で鳴らしたというおじいさん二人による、迫力あるチャンバラ・シーンの披露あり…

ということで皆さんなかなか芸達者。その後、10数える間に短い紐を使っていくつ結び目をつくれるか?などというゲームも行われたりして、これら文化プログラムの参加者には賞品のコップが渡されました。

この集会には来賓として地域のエリートも参加。郡の行政のトップであるUNO(郡令)や郡の警察のトップなども訪れて参加者に挨拶しました。最近ギオール郡に配属されたUNOとは初めてお会いしましたが、彼は「皆さんを目の前にすると、故郷に残してきた老いた両親を思い出し、すぐにでも休みをとって故郷に帰りたい気持ちになります」とスピーチ。もったいぶったカタイ挨拶をする役人が多い中、なかなかハートのある人だな、と思いました。

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その後、参加者のうちとくに足が悪くて貧しい20人のお年寄りに杖の贈呈。写真で贈呈しているのは、そのハートのあるUNO氏です。

この杖の贈呈が終わるか終わらないうちから、なんとなく会場はざわざわ。立ち上がって事務所の建物内に移動する人たちが目立ちます。

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それはお医者さんが到着し、事務所の中で無料の健康診断が始まったため。時間もマンパワーも限りがあるので、簡単な診療と基本的な薬の処方しかできませんが、これを一番の目当てに来る人も多いのです。

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杖の贈呈が終わるとちょうどお昼。椅子を取り払い、ジュートの敷物の上に皆並んで座って、一緒にお昼ご飯です。この日のメニューはチキンカレーとじゃがいものカレー、そしてダール豆のスープ。200人分の昼食はポイラ事務所の調理スタッフ、ユスフが2人のアシスタントを使って朝の4時からがんばって用意したもの。

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ごく基本的なメニューではありましたが、味はなかなかのもので、来賓にも、参加したお年寄りたちにも好評でした。

朝10時過ぎから始まった集いは2時半ごろにはお開きとなり、その後、STEPが今年から行っている高齢者への巡回訪問の対象者2人を訪ねました。これまでは年に1度の高齢者集会を行うだけだったのですが、農村のお年寄りの困窮状態をみるにつけ、高齢者のための活動の必要性を感じ、今年から試験的に開始したものです。1年目は事務所から比較的近くに住んでいて困窮度合いが大きく、家族がいるお年寄り20人を選んで、STEPのスタッフが毎月家庭訪問しています。「家族がいるお年寄り」をまず選んだのは、STEPがお年寄りに直接サービス提供するというより、家族や地域の人々に働きかけてお年寄りの状況をよくしていく、というアプローチをとろうとしているからです。

この日訪問したのは2人ともバグディというヒンドゥーの被差別カーストのおばあさん。村の中でもとくに貧しいバグディであることに加え、高齢であること、夫に先立たれた「未亡人」であることで、さらに弱い立場におかれている人たちです。この村でもっとも弱い立場にある人、といってもいいかもしれません。

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最初に訪ねたクムディニさんは体調を崩して横になっていました。STEPのスタッフのシリンが「今日の集会に来てなかったから心配したのよ。でも今日は暑かったし体調が悪かったんなら無理に来ないのが正解だったわよ」と話しかけます。「行きたかったんだけど咳が止まらなくてね…」とクムディニさん。

クムディニさんの食事や身の回りの世話は同じ敷地内に住む次男一家がしています。少し経済状態のよい長男夫婦も同じ敷地の一番いい家に住んでいるのに、クムディニさんには知らんぷりだとか。次男の妻やその娘はクムディニさんをよく手伝っているそうで、夜トイレに行くときも孫娘がつきそっているそうです。トイレは盛り土した家の敷地の外側にあるので、そこに行くには土手をおりていかなければなりません。農村の夜、外は真っ暗です。夜中に用を足すことがお年寄りにとってはどれだけ大変か。

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次に訪問したのは同じくバグディのテニバラさん。この日は高齢者の集いでもらった杖を手に、新しいサリーをこざっぱりとまとって笑顔を見せてくれましたが、実は彼女は日頃はクムディニさんよりずっと辛い状況におかれています。

テニバラさんの息子夫婦はテニバラさんを非常に邪険に扱い、母屋の中に同居させず、軒先を囲っただけのスペースに住まわせているのです。実は去年の高齢者集会でもテニバラさんは杖をもらったのですが、その杖は息子が子どもをたたくのに使って折ってしまったとのこと。ひどい話です。

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3ヶ月ほど前からSTEPのスタッフが通うようになり、雨漏りし放題のテニバラさんの居場所についてなんとかするうように言い続けたため、かろうじて雨漏り防止のビニールシートが屋根にかけてあります。しかし、これからだんだん寒くなったら大変です。

テニバラさんに「ご飯はちゃんと食べられますか?」と尋ねたら、小さな声で「いいえ。粗相してしまうから食事はたくさんは食べられないの」という答えが返ってきて、胸が詰まりました。手足の指が縮んだように曲がってしまっているテニバラさんはひとりで歩いて用を足しにいくのは困難です。介助してくれる人がないために、サリーの中に排泄してしまうことも多く、そうすると息子夫婦はひどくなじるらしいのです。

母屋の中に入れず、軒先に寝かせているのも、「おもらしをして臭いから」ということなのでしょう。そうなることを恐れて、ろくに食事もとらずに我慢しているテニバラさんは本当に気の毒です。

まだ始まったばかりのSTEPの高齢者訪問ですが、毎月STEPのスタッフが様子を見に来て直接お年寄りと話をし、家族にもお年寄りの生活環境をよくするよう説得していく、という地道な活動の必要性を強く感じました。

それにしてもやっぱり身体の自由がきかないお年寄りにとっても、介助する家族にとっても一番切実なのはトイレですよね…。この地域は洪水常襲地なので、浸水したらますます大変です。大人用紙オムツなんてものはないですし。

ポイラ事務所に戻った後、STEPのスタッフたちと日本とバングラデシュのお年寄りの状況や家族の状況について雑談になりました。「日本では核家族がほとんどなんでしょう。お年寄りの世話は誰がしているの?」という質問にぐっと詰まりました。私も介護が必要な父を母にまかせてバングラデシュに来ているからです。私も、妹も、弟も両親とは同じ家で暮らしていない、と言うと「え、じゃあご両親だけなの?」と目を丸くするので、後ろめたい気持ちになりました。ちょくちょく一時帰国して様子を見に行ってはいるものの、日頃の父の介護は母にまかせっきりですから…。

日本の介護保険やケアマネジャー、デイケアセンターなどのシステムについて話すと、女性スタッフのひとりは「日本はいいねえ。バングラデシュの政府がそんなシステムをつくれるのはいったいいつの日になることか…」とため息。

大家族制度が壊れつつあるといわれるバングラデシュ。高齢者の困難はこれからますます深刻になっていくでしょう。日本に親をおいてバングラデシュくんだりまで来ている私にとっても、いろいろ考えさせられる1日でした。