今日は久々に何も予定のない土曜日。夜、TVのチャンネル・アイで名物番組、「Mati o Manushi(土と人)」を見ました。これはタイトルからも想像がつく通り農村のドキュメント番組で、いうなればバングラデシュ版「明るい農村」(ってNHKでずっと早朝やっていましたが、今もあるんでしょうか)。シャイク・シラーズという、これまたバングラデシュでは有名なTVディレクター兼レポーターが、国中の様々な農村を訪ねて行っては、そこで働く農民たちにインタビューする、という番組で、見ると何かしらいつも感心するような発見があります。元々バングラデシュ国営放送で1980年代半ばからやっていた長寿番組だったのですが、今はケーブルTV局のチャンネル・アイに移っています。バングラデシュの農業に革命的な影響を与えた番組だと言われています。

このシャイク・シラーズという人は、がっしりした体躯にシンプルなシャツとズボン、日に焼けた顔に地味な眼鏡、というおじさんなのですが、農村の家々や畑や茶店、ときにはズボンの裾を捲り上げて田んぼの真ん中までマイクを持って入り込み、実に気さくにうまく農民たちの話を引き出すのです。バングラデシュの農民にとっての知名度は、グラミン銀行のユヌス氏より上でしょう。

今日の番組のサブタイトルは、「薬草の村」でした。ナトール県のある村からのレポートだったのですが、ここは村中の人々がアロエやニームなど、様々な薬草を栽培しているのです。元々は村に住むコビラージュ(まじない師)が治療に使う薬草を栽培していたのが始まりで、彼に倣って村中が薬草栽培を始め、今は「薬草の村」として有名になり、ダッカやチッタゴンなど国中から商人が買い付けに来るようになったのだとか。このコビラージュはほとんど学校教育も受けていない人なのですが、彼が始めたこの村の薬草栽培は今は国の研究機関からも注目されるまでになっているんだそうです。

茶店でシラーズ氏を囲んだ村人たちは、薬草栽培はいい商売になるのだが、マーケティングのルートが確立していないことや、自分たちの知識が足りず、クオリティ・コントロールが十分できないのが問題、と話していました。農民たちがまったく自分たちだけで試行錯誤しながら工夫して、国中からバイヤーが来るまでにしたというのはすごいことだなあ、と感心しました。

開発に携わる人間は、下手をすると地域の人々が持っている存在的な力や知恵を軽視し、知識や技術は外から持ち込むもの、と考えがちですが、もっとこういう地元住民が自力で成し遂げた成功例に学ばないといけませんね。

前にこの番組を見たとき、シラーズ氏は日本の農村を取材していました(この番組は時々海外取材もあるのです)。日本の農協のシステムをレポートし、日本でもバングラデシュでするのと同じように畑に立って農家の人にインタビューしていました。シラーズ氏曰く、バングラデシュでは流通のシステムが十分整備されておらず、農作物の価格の調整も不十分なので、農民が不利な立場に置かれている。国がしっかり施策をたてるべきだと。

マイク片手に国中歩き回り、土とともに生きる人々の声を聞き、農村の生活向上のための提言を続けるシラーズ氏の姿を見ると、この国のメディアの良心を見るようで、なんだか元気が出てきます。