2015年に制定された開発協力大綱(日本政府および関連機関が実施する開発協力の指針となる文書)が8年ぶりに改定されることになり、昨年から有識者懇談会の開催、日本各地での意見交換会などを経て、4月5日に改定案が公開され、5月4日までパブリックコメントが募集されています。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/about/kaikaku/page22_001645.html

これに関して、2022年9月に突然改定が発表され有識者懇談会が始まって以降、市民社会組織として要請書の提出や外務省との協議の場を設定するなど様々なアドボカシー活動を行ってきました。
「開発協力大綱」改定に対する NGO 要請書(2022年10月)↓
http://nancis.org/wp-content/uploads/2022/10/86eabb2c94ca37cae7fb9a5e05735a3d.pdf

昨日(4月10日)には、市民社会としてこの改定案の内容をどのように分析し、何を訴えていかなければならないかを話し合う勉強会を開催。60団体以上が参加し多様な意見が出されました。

【基本方針】
外務省が大綱の改定を行うと発表した時点の方針として「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の理念を更に推進していくための協力を強化する、ということがまず第1に挙げられ、その次に「日本の経済安全保障に資する開発協力を推進」「日本企業の海外展開支援を推進」することが明記されていました。これに対し、NGOからは、開発協力は途上国の課題解決を第1の目的とすべきという意見を再三伝えてきました。今回出された改定案では、「FOIP」「経済安全保障」という文言はほとんど使われていないものの、「自由で開かれた新たな国際秩序」という言葉が随所に散りばめられ、また民間企業の役割が大きく取り上げられるとともに「同志国」の記述が新たに盛り込まれるなど、日本の国益重視の考え方が大綱全体に通底する内容となっており、注視しなければなりません。

【人間の安全保障】
「人間の安全保障の理念に基づく」と述べつつ、全体として経済開発やインフラ重視の姿勢が改めて示される一方、社会開発に関する記述は全くありません。日本が主導的な役割を果たしながら堅持してきた、人々が恐怖と欠乏から自由になり、一人ひとりがもつ能力を発揮できる社会を実現するという「人間の安全保障」の理念が形骸化することの無いよう、改めて訴える必要があります。

【市民社会との連携】
現行の大綱同様、「市民社会を我が国の開発協力の戦略的パートナーと位置づける」としているが、「戦略的パートナー」が指す具体的な内容は示されておらず、どのような方向で連携を進めようとしているのかが不明確。また、途上国の市民社会との連携・協働といった点には触れられておらず、この点もアドボカシーが必要と考えられます。

【OSAとのODAの関係】
大綱改定案と同じ4月5日に「政府安全保障能力強化支援(OSA)」の創設が公表されました。NGOからこれについてODAとの関係性についての懸念を伝え協議することを求めていますが、外務省からは「ODAとは切り離されたものであり、ODAの非軍事原則に変化はない」という回答があったのみです。「同志国」への軍事支援を可能とするOSAがODAに与える影響が本当にないのか。そもそもODAの枠組みとは切り離されてるとはいえ、日本の途上国への軍事支援が拡大されることについての危機感を私たちは声に出していかなければならないと考えます。

これ以外にも留意すべき点、外務省へ訴えるべき点はたくさんあると思います。シャプラニールからは、大綱の内容に大きな影響を受ける途上国をはじめ日本以外の人々の意見をきちんと聞くべきであると何度か伝えてきましたが、外務省として英語版は用意していません。そのため、急いでスタッフが手分けをして私訳を作成し、公開しました。ぜひ、この英訳を活用していただき、それぞれのネットワークを通じ、多くの人の声を聴き、パブリックコメントにも反映してもらえればと思います。

Development Cooperation Charter DRAFT (開発協力大綱改定案 英語訳版)


2023年4月11日 事務局長 小松豊明