理事・評議員からのメッセージ

シャプラニールの運営に関わる理事・評議員の皆さんから、
ご自身の活動や専門性の高いトピックに焦点を当てたレポートが届きました。
タイムリーな話題、広い視野から多角的な海外協力の今をお伝えします。


SDGsと途上国のソーシャルビジネスへの社会的投資」

シャプラニール評議員/ARUN合同会社代表 功能 聡子

カンボジアで出会った「社会的投資」

私は1995年から2005年までの10年間、カンボジアに住んでいました。赴任当時のカンボジアは、復興が始まったばかりで、農村の貧困や社会インフラの欠如が顕著でした。最初に所属したNGOでは、農村でプライマリヘルスケア活動に従事し、住民参加型の方法で人々の生活習慣の改善や保健知識の向上、保健ワーカーの育成を行いました。その後、国際協力機構(JICA)に移り、カンボジア政府の保健セクター改革の支援や、NGOとの連携事業などにかかわりました。

thumbnail (1)1995年のカンボジア農村での保健教育及び予防接種の様子

 関心があったのは、現地の人々のエンパワーメントやオーナーシップはどうしたら実現されるのか、ということでした。優れた開発団体により始まったイニシアチブも、支援期間が終了すると継続できない例を数多く見聞きし、援助の限界を感じていたからです。

そんな時に、貧困問題をビジネスの力で解決しようとするカンボジア人の起業家と出会いました。ビジネスが、エンパワーメントやオーナーシップをもたらす自然で効果的な選択肢となりうるというのは、新鮮な驚きでした。起業家を通して「社会的投資」に出会い、経済的リターンと社会的インパクトの両立を図るコンセプトに可能性を感じて、ARUN(アルン)を設立しました。ARUNのビジョンは「地球上のどこに生まれた人も一人ひとりの才能を発揮できる社会」です。これまでカンボジア、インド、バングラデシュで活動する社会的企業に社会的投資を行ってきました。

SDGsと投資

 先日、「SDGs書籍の著者に聞く」というオンラインイベントに登壇しました。私は監修者として、「60分でわかる!SDGs超入門」を紹介しました。本書の特徴は、SDGs全般の知識とビジネスに絞ったテーマが、ひとつかみで理解できるところです。言うまでもなく、SDGsのキーメッセージは「誰一人取り残さない」ですが、これをビジネスを通して実現していくためにはどうしたら良いのかを解説しています。また、投資がどのようにSDGs達成に貢献するのか、について具体例を交えてご紹介しています。


SDGs達成の鍵を握るESG投資、そして社会的投資

 ESG投資とは、投資を行う際に、財務情報だけでなく、E(環境)、S(社会)、G(ガバナンス)と言う非財務情報を考慮して行う投資を指しています。社会的投資、あるいはインパクト投資は、さらに一歩進んで、「財務的リターンと並行してポジティブで測定可能な社会的および環境的インパクトを生み出すことを意図する投資」(GIIN)です。

こうした投資手法が広がることによって、社会課題の解決に取り組むビジネスに資金が集まり、SDGs達成に貢献することが期待されています。これまで貧困削減や環境保護に向けられてきた政府や国際機関を中心とした資金源では、年間、2兆5000億ドル不足すると言われていますが、この不足分を埋める民間の力と言えるでしょう。

社会的投資の事例

社会的投資にも様々な種類がありますが、ARUNのように、スタートアップ段階の企業に投資をする場合には、資金を提供するだけでなく、ハンズオンでの伴奏支援が重要です。途上国の貧困削減や環境問題の解決を目的とした事業に投資するためには、それぞれの地域の特徴を理解し、柔軟に対応していくことも求められます。ビジネスやファイナンスだけでなく、国際協力の知見も必要です。具体的なイメージを持っていただくために、社会課題の解決に取り組むビジネスの事例をご紹介したいと思います。

ー女性向けの衛生商品を開発、販売している企業(インド)

取り組んでいる課題:インドでは劣悪な衛生環境が深刻な課題で、特に女性が影響を受けています。例えば、非常に汚いトイレで用を足さざるを得ず、感染症に罹患するリスクも高くなっています。また、生理用品が高級品と言う理由で手が出せない女性も多く存在します。生理用品が買えないことで、心理的なストレス、就業・修学の機会が奪われています。

事業内容:女性が直面する衛生関連の課題解決を目指しています。例えば、立ったままトイレをすることができる製品や月経カップなどを展開。月経カップは繰り返し使うことができるため、生理用ナプキンを購入するよりもトータルのコストは安くなり、貧しい世帯の女性でも購入することができます。また、女性が衛生関連の情報や懸念をシェアできるオンラインプラットフォームも提供しています。インドではタブー視されがちな月経に関する悩みが共有できる場となっています。

ー零細企業、女性起業家を対象としたサービスを提供している企業(インドネシア)

取り組んでいる課題:インドネシアの農村部では、伝統工芸品の販売が大きな収入源となっており、零細中小企業は120万社存在しますが、市場が限定されており、COVID-19感染拡大の影響を大きく受けています。また、デジタル化もできていないため非効率な販売をせざるを得ず、収入向上が難しくなっています。

thumbnailインドネシア農村部のクラフト生産者(2020年撮影)

事業内容アプリを用いて購買企業(大手家具メーカーなど)と農村部の職人を繋ぎ、サプライチェーンの見える化や農村部の職人に対する金融アクセスなどのサービスを提供しています。サービスを利用した職人の収入は平均で40%以上増加しています。また、伝統工芸品の生産に従事するのは主に女性であるため、女性の地位向上にも貢献しています。創業メンバーも全員女性、かつ60人の従業員のうち70%が女性という、女性による女性のエンパワーメントを実現している社会的企業です。

thumbnail (1)クラフト生産者が使用しているモバイルアプリの画面

「インクルージョンと」「イノベーション」

 「インクルージョン」とは、社会から排除された人々を社会の中で包摂する、と言う考え方です。社会的企業のビジネスは、その対象が女性、農民、零細事業者、難民など、ビジネスの対象とされてこなかった人たちです。「インクルージョン」が、ビジネスの起点となり、これまで排除されてきた社会的に弱い立場の人々のエンパワーメントにつながっています。例えば、上の事例で言うと、女性が生理中でも学校や仕事に行くことができるようになったり、所得が増えて自信が生まれたり、自己決定権を持つなどの変化を生み出しています。現地のNGOや自治体との連携も活発に行われています。

また、収益化が難しかった社会課題を事業化し、ビジネスとして成立させるためには、「イノベーション」が不可欠です。「イノベーション」とは、新しいアイディアや技術から新たな価値を創造し社会に変革をもたらすことを意味します。

社会的企業の場合は、デジタル技術の活用であったり、サプライチェーンの革新であったり、ビジネスモデルのイノベーションであったりします。国際機関やNGOからの補助金を活用して原資を分散させることで、ハイブリッドなビジネスモデルを構築する場合もあります。

こうした、社会的企業とのパートナーシップから、私たちが学ぶことはたくさんあると実感しています。また、SDGsや社会課題解決型ビジネスに関心のある人には、先端的な研究テーマの探索や、実証実験など、様々な機会を得ることができるでしょう

シャプラニールへのエール

今、変化の激しい時代だからこそ、現地の声を聞き、現場が何を求めているかを知り、自らの役割を再定義しながら行動していくことが求められているのではないかと思います。そして、シャプラニールの強みは、現場の声を聞くと言う首尾一貫した姿勢と、現場の声から学び自らを変化させ続ける柔軟性ではないかと思います。バングラデシュ、ネパール、日本で何が起きているかを丁寧に観察し、シャプラニールならではの視点でとらえて、発信してほしい。

途上国の社会的企業との連携や、彼らのイノベーションが、日本社会にとって新たな発見となり重要な意味を持つケースは、これからさらに増えてくるのではないかと思います。途上国の現場と関わり続けている強みを、これからも活かして行ってほしいと思います。


thumbnailPROFILE こうの・さとこ
民間企業、アジア学院を経て1995年より10年間カンボジアに在住。NGO、JICA、世界銀行などの業務を通して、復興・開発支援に携わる。カンボジア人の社会起業家との出会いからソーシャル・ファイナンスに目を開かれ、その必要性と可能性を確信、ARUNを設立。「60分でわかる! SDGs超入門」(2019年技術評論社)監修。

会報「南の風」292号掲載(2021年6月発行)
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