このところ、「Yaba」と呼ばれる麻薬の錠剤がダッカ市内で大量に押収され、新聞の一面で報道されています。元々タイから入ってきていたらしいのですが、ダッカ市内でも大々的に製造していた人間がおり、今回逮捕されました。インターネットや携帯電話を使って手広く商売していたようです。

ダッカ事務所や私のメールアドレスにもどこで調べたのか怪しい薬の宣伝メールが毎日嫌になるほど届くぐらいなので、インターネットでのクスリ販売というのは世界的に相当広まっているのでしょう(もちろん日本でも)。今回ダッカで発覚したのもほんの氷山の一角なんじゃないかと思います。

このニュースが新聞やテレビをにぎわせるまで、Yabaなどという錠剤の名前は聞いたことがなかったのですが、ふと、そういえば2年ほど前、ストリートチルドレンのドロップインセンターで子どもたちと話をしていたとき、数人の子どもが、「最近、ミャンマーから新しい麻薬が入ってきているようだ。見た目は普通の飲み薬だけどかなりヤバイもので、飲み続けるとボロボロになってしまうらしい」と話していたことを思い出しました。あのとき子どもたちが言っていた薬がこのYabaだったのかも…。

ドロップイン・センターや青空教室では、子どもたちとスタッフとのミーティングの中で麻薬の怖さについて話し合うなど、常に麻薬の害について意識啓発を行っていますが、ここに来ている子どもたちは実際麻薬が飛び交うような環境にいるわけで、常習者のおとなの姿も身近に目にしています。ドロップインセンターに来ている子どもの中には、スラムに家はあるものの、親が麻薬中毒だったり、麻薬の売人をしていて子どもも商売に巻き込もうとしており、スタッフが目を光らせているようなケースもあります。

シャプラニールダッカ事務所のあるモハマドプール地区は、昔から様々なNGOの事務所の多いところなのですが、現在のダッカ事務所の真裏の建物には麻薬依存症の人たちの社会復帰を行っているNGOが入っています。ちょうど女子トイレの窓の向こうがそのNGOの施設なんですが、時々そこに収容されている人たちが皆で何か朗読していたり、歌を歌っているのが聞こえます。

仕事中、裏から楽しそうに歌っている声が聞こえてきたりすると、思わずダッカ事務所のスタッフが「本人たちは楽しそうだけど、今頃家族はどうしているのかねえ。まったく『あなたは天国、わたしは地獄』だよなあ」などと呟いています。夫が麻薬中毒で働かず、妻に暴力を振るう、という話は農村部の活動地でも時々耳にしますが、妻にしてみれば本当にぞっとするような地獄の日々でしょう。

人々の身体や心、家族を壊すような麻薬を大量生産して儲けようとしていたような連中には、厳罰を与えてもらいたいと思います。一部の麻薬が「痩せ薬」として、ティーンエイジャーの少女たちの間に広まっているという話も聞きます。スラムなどこれまで「麻薬危険地帯」とされてきたところだけでなく、一般の若者への麻薬についての啓発活動ももっと必要でしょう。