私はオフィスへの通勤に毎日リキシャに乗っています。リキシャをこぐ人の贅肉のまったくない背中を見ながら、ほんとうにこの仕事は重労働だな…といつも思います。リキシャワラ(リキシャの運転手)の標準的服装は、半袖シャツにルンギ(腰巻)、サンダル履き、頭か首、手首などにベンガル風のカラフルな手ぬぐい=ガムチャを巻く、といういでたち。暑いこの季節、彼らのシャツの背中は汗でべったり貼りついています。雨の日もビニール袋を頭にかぶるだけでずぶ濡れになってリキシャをこいでいます。命を縮めるような過酷な仕事ですが、この仕事があるおかげでなんとか食べていける、という人がバングラデシュには万単位でいます。

今日の夕方乗ったリキシャの運転手は、足に片方しかサンダルを履いていなくて、乗るとき一瞬、あれ?と思ったのですが、彼が私を乗せてリキシャをこぎ出してからその理由がわかり、仰天しました。彼は右半身ほとんど不随だったのです。右手はハンドルをつかむこともできないし、サンダルを履いていない右足も、ペダルに乗せているだけ。彼は必死でバランスを取りながら、左手と左足だけでリキシャをこいでいるのです。

私の家の周辺は道路のメンテナンスが悪くて、空のリキシャをこぐのでも苦労するようなひどいガタガタ道です。そこを彼は片手、片足で、「アッラー、アッラー」と言いながら重いリキシャをこぐのです。あまりにも大変な有様でした。これまで2年間、村から出てきたばかりのような若い人、相当な高齢の人など、毎日いろんなリキシャワラがこぐリキシャに乗ってきましたが、これほどの障がいを持ちながら、リキシャをこぎ続けている人に会ったのは初めてでした。

家に着いてリキシャを降りると、彼は自分から何か一生懸命に話し始めました。かなりなまりが強くて聞き取りにくかったのですが、聞いてみると、「苦労しながらも月々貯金してがんばってきたのに、1年ぐらい前から半身不随になってしまい(高いところから落ちたのが原因らしい)、本当に苦労の人生だ」という話をしているのでした。しかし、同情を買おうとしているとか、だからお金をくれ、というのでもなく、ただ自分がどんなに苦労してがんばっているか聞いてほしい、という感じで話すのです。

いつも10タカのところ、20タカあげました。「私のために祈ってくれ」と彼が言うので、「祈ります」と言ったら、彼はかすかに笑ってまた片足でリキシャをこいでいきました。