ユヌスさん第三の公開レター

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また3日ほどコルカタへ行っていたりして更新が滞りましたが、その間にもバングラデシュではいろいろなことがありました。
5月1日(火)ダッカ、チッタゴン、シレットの駅でほぼ同時に小規模な爆弾が爆発。現場にはジュディース・アルカエダと名乗る団体が犯行声明を残したアルミの円盤があり、「アフマディヤ(一般に異端とみなされているイスラム教の一派)とNGOは10日までに活動を止めないと死が待っている」と警告。
5月3日(木)ユヌス氏、3つ目の公開レターで政界出馬断念を表明。
5月6日(日)ジア元首相の秘書の妻が「選挙管理内閣は違法」と最高裁に提訴
5月7日(月)シェイク・ハシナ前首相ロンドンから帰国
爆弾事件もヤな感じではありますが、こういう連中にNGOが脅されるのも今に始まったことじゃなく、いちいちに気にしてられません。攻撃されるとしてもウチと違って大きなNGOでしょうしー。まあ、用心するに越したことはないですけど。
それより日本の皆さんが気にかかっているのは、ユヌスさんの出馬断念のことでしょう。今回は夢破れて…という感じで、あんまり元気の出るような内容じゃないですが、第一、第二の手紙を訳してご紹介した成り行き上、今回の手紙もご紹介しましょう(英語の全文はコチラ)。来週から会議もあるし他の原稿締切りもあって全然暇じゃないんですけど、これを読んでいただくとなんとなく今のバングラデシュを覆う空気も伝わるかと思うので。…とかいって私は昔から試験直前とか引越し作業中に関係ない本を読み始めちゃったりする癖があるんですよね。一種の逃避か(笑)
ちなみに私の周囲のバングラデシュ人の反応は、「最初からそうなると思ってた」「暫定政権が二人の党首の海外送りに失敗したから止めた方がいいってことになったんじゃない」とシビア。「今止める決断をしたのは賢明」というのが共通の意見のようです。残念ですが。
ユヌスさん、Give upとかquitとかいう言葉は使っていません。Stand asideというのはどういうニュアンスなのか正確にわからなかったんですが、どなたか英語が得意な方教えてください。
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ユヌスさんの公開レター第三弾(仮訳:藤岡)
親愛なる市民の皆さんへ
私は以前二度皆さんに手紙を書きました。2月11日の最初の手紙では、私が政界に入るべきかどうか皆さんのご意見を尋ねました。2月22日の二度目の手紙では、皆さんの励ましを得て、政界に出馬し、政党をつくることを宣言しました。政党の名前はたぶん「市民の力」になるだろう、ということもお伝えしました。今回の三度目の手紙は皆さんに私が政党をつくる努力から離れる(Stand aside)ことをお伝えするために書いています。あなた方のサポートに励まされ、新しい政治の流れをつくることへの希望につき動かされて、私は政界入りすることを決めました。この決断をした時点で、私は今まで人生をかけてやってきた全ての仕事を捨てて新しい人生に入り、政党作りに熱中する覚悟ができていました。政党作りの最初の一歩として、私は強力な組織化チームづくりのプロセスにとりかかりました。室内政治禁止令が解除されたらすぐに、皆さんにこのチームを紹介し、政党作りに邁進するつもりでした。しかし、全力を尽くしての努力にも関わらず、私は自信がもてるようなチームをつくることができませんでした。このプロセスから得た経験から、私はこれ以上時間をかけても成功できないだろう、と思ったのです。それで、私はこれ以上この道を進むことは正しくないという現実を受け入れ、退く決意をしたのです。
非常事態宣言が出て新しい選挙管理内閣ができた後、大きな期待感が国中に広がりました。政治の世界にも新たなドアが開かれました。敵対的、分裂的で、衝突ばかりの政治を葬り去り、新たなリーダーシップによる政治の流れの中で、国の経済を推し進める機会が生まれました。誰もがこのような機会はめったに来ないことを理解しました。この国の誰もが、もし善良な政治的意志と、有能なリーダーシップと、よいガバナンスが保証されれば、革新により不可能が可能になると感じています。
私はこのような観点から政界に入ることを決めました。私たちはひとつの夢を持っていました。汚職に無縁の政党、統一され、合意のとれた、共感が持てる、平和的で、世俗的で、大胆な経済発展を推し進める政党をつくる、という夢、人々を衝突や不信や失望から解放し、この国を自信の持てる国に変える、という夢です。私たちは皆、どこへ向かって進むべきかがわかっています。進む方向かわかっていれば、全力を尽くしてそこへたどり着くことができる–私はこの信念からイニシアチブをとったのです。
皆さんは私の呼びかけに、たくさんの手紙や、ファックスや、Eメールや携帯メールで応え、支援を表明してくれました。皆さんは新聞社に手紙を送ってアドバイスをくれたり、新聞の投稿記事やテレビ討議で提案をしてくれたりしました。多くの方たちが自分の地域で準備チームをつくったと知らせてくれました。海外在住の多くの方が、委員会をつくったと知らせてくれました。国内、海外を問わず多くの若い人たちが、ボランティアで時間や才能を差し出すと言ってくれました。皆さんに本当に感謝します。あなた方に希望を与えたあとで政治から離れることを非常に申し訳なく思います。私が早めにこの決断を下したのは、私の決断を遅らせることで皆さんに更なる失望を与えないためです。
私が政党結成を表明したあと、私が知る人や知らない人、政治家や政治家以外で政治に関心がある人が、私に連絡をくれました。私は彼らに党に入ってくれるように勧めました。連絡をくれなかった人でも、この人がいれば党を強めることができる、と私が思った人にはこちらから連絡しました。海外へ出ているときは、毎日何人もの人と連絡をとりました。私と共に政党づくりに向けて働いてくれていた人たちも、これらの人たちと連絡をとり続けました。
このコミュニケーションのプロセスを通じて、ひとつのことがだんだん明らかになってきました。私を励ましてくれる人たちは、各自の問題があって、自分自身では政界には入らないし、公に私を支援することもしないということです。また、政党に所属している人たちは、政党を離れようとしません。少なくとも、今は。もし政治的な状況が変われば、あとで参加するのかもしれませんが。これら全てを計算に入れると、ほとんど何も蓄積されていないことに私は気がつきました。だとすれば、私は誰と強いチームを作れるでしょう?
私は約束を破らず、透明で、汚職がなく、成功できる政党に必要な要素から逸れることなく、政党作りを進めました。私は、新しい政治の道をつくるのに最もふさわしいと思った方法で進めました。この仕事を進めるうちに、私が人々に強く明るいオルタナティブを示すために必要としているような人々は、私を手伝ってくれないことがだんだん明らかになってきました。政党に所属している人も、それ以外で政治に熱心な人々もです。彼らは皆新たな政治の道が拓けることを望み、この国の政治文化を変えることに熱心です。しかし、私は彼らを引き込むことができませんでした。最初は私を励ましてくれた人たちも、だんだんそうでなくなっていきました。
それを見て私は自分自身に疑問を感じ始めたのです。–このまま前に進むべきか、立ち止まって待つべきか?それとも政党をつくるという努力自体を完全に止めるべきか?私は弱い政党をつくりたくはありませんでした。弱い政党で新たな政界づくりに挑むぐらいなら、他の誰かがその努力をして成功するのを待ちましょう。
私はトライしています。私とともにある人たちも、どこにいようとトライしています。私たちは私たちの努力を通じて、新しい政治の流れが必要であることを、提起しています。今、他の誰かが進み出て、この空隙を埋めなければなりません。その人々が大きな成功を収めることを望みます。
この国は大きな可能性のドアの前にいます。私たちにとってこれからの5年間は非常に重要です。この5年こそ変化の時です。政治的にも経済的に大きな決断をし、その決断を実行すべき時です。バングラデシュを地域の商業とコミュニケーションのハブとすべく、地域の交通経路を結び、深い海港をつくるべき時です。世界のエネルギーが枯渇する中、私たちの国には豊かな石炭とガスがあります。これらの莫大な鉱資源を国の発展のために使うべきです。バングラデシュを情報テクノロジー利用において最高の国にすべき時です。国の人材を強化し、世界レベルの教育とトレーニングとで、その人材を国のため、世界のために役立つ人材に育てあげるべき時です。海外在住バングラデシュ人からの送金が生産的に使われ、彼らの技術と資金が国の発展と結びつくようにすべき時です。地方行政を強化すべき時です。
この国の経済や政治のギアを、別段階に入れるべき時が来ています。この国の精神はこれまでの段階を卒業し、より高いレベルに進む準備ができています。今必要なのは、これらの仕事を適切にうまくこなすことができる新たな政党とリーダーシップを作り出すことです。
私たちはこの政治と経済を変える仕事に失敗すべきではありません。
私の失敗や限界にも拘わらず、私を愛し共に苦しんでくれた人すべてに心から深く感謝します。
ムハマド・ユヌス
2007年5月3日
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6件のコメント

  1. いのくま on

    うーん。いろいろなことを考えてしまいますね。バングラデシュがこれからどうなっていくのか、岐路にあるように思います。ユヌスさんが手を引くことで、どうなっていくのでしょうね。

  2. ふじおか on

    いのくまさん、コメントありがとうございました。いずれにしてもユヌスさんが勝てる見込みは薄かったと思います、正直なところ。ユヌスさんの今回の決断に、ご家族や周囲の人たちはほっとしてらっしゃるんじゃないでしょうか。でも、ユヌスさんが書いているような、「他の誰か」が出てくるとも思えないし、残念だけれど、また二大政党がいがみ合う(少しは前よりマシになるかもしれないけど)社会に戻ってしまうんだろうな…という感じですね。

  3. j、フォキール on

    政治の権力を欲しがる人とその他の人は別世界ですよね?日本を見ても!今回、ユヌス氏は自身の為には身を引いて正解だったと思います。しかし、国にとってはユヌス氏が言っているように危機!これをきっかけに二大政党政治は増々お互いを罵り合い、政治に対して無関心者が増え、私利私欲に走るのではないでしょうか?!インドと違い、国威高揚の素材が何もないバングラデシュ。長年(?)観てきて、このまま行けば、バングラデシュは薄っぺらな国・人間になっていくように思います。日本が、私たちが歩いているように・・。                       「こい(これ)じゃいかん!なんとかせんな!」とは、我ふるさと宮崎県の東国原知事のことばですが・・。他人のことを言っている場合ではないですよね!                      政治の役割もありますが、多分多分、世界の市民同士がつながり小波を起し、それがやがて大きな波になる、大きな波にする!と思うのは理想が過ぎるでしょうか?十数年前、「シャプラはウエーブだ」と言ったことを思い出しました。ウエーブ・ムーブメント・・、学生運動の名残りが染み付いていますね!

  4. ふじおか on

    j,フォキールさん、コメントありがとうございました。ユヌスさんの今回の手紙の中に、「私が必要としているような人は私を助けてくれなかった」というくだりがあり、それを読んで、ああやっぱり・・・と思ってしまいました。若い人たちや海外在住の人たちがいくら応援してくれても、実際に一緒に党を組んで政治に取り組めるような経験のある人は力を貸してくれなかったのですね。でも、口では応援しても自ら動く人は少ない、というのはバングラだけじゃないですね。

  5. ユヌスさんの件、本当に残念です。今回の選挙をめぐる一連の動きで、政治や汚職に対する国民の関心が高まったことはよかったのですが、それがいい方向に反映されていくのかどうか…。ユヌスさんが言う「他の誰か」はいつ現れるのか?かつてバングラデシュが独立をはたしたときのように、次の時代を担う若い人たちが何かしらムーブメントを起こしていったら…とも思いますが。
    何にしても、私は日本から状況を見守ることしかできないですが…。

  6. ふじおか on

    Mariさん、コメントありがとうございました。ほんと、「他の誰か」なんて現れるの?と思いますよね。若者たちは優秀な人ほどクールで、政治には足を突っ込みたくなさそうだし。皆、国を変えたい、変わって欲しい思いはあるけど、政治の泥沼に自ら入って戦おうという勇気はなかなか持てないんじゃないでしょうか。それは日本も同じですね。

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