さて、12月のスタディツアー、続きです。

2泊3日のPAPRI宿泊の後はダッカに移動。縫製工場見学⇒手工芸品生産者訪問⇒家事使用人として働く少女たちの支援センター訪問⇒観光・買い物という流れで都市部の暮らしの様子を観察して頂いたのですが、特に縫製工場見学時の様子をお伝えしたいと思います。

縫製工場見学は初めての取組み、かつ全く初対面の相手なので緊張しました。しかも日本では最低賃金に関連した暴動や過酷な労働環境など縫製産業のネガティブな側面が強調されている感があったのでさらに緊張。まあ見学を許可して頂いたこと自体が後ろ暗いことはないという一つの証ではあるのですが。

今回受入をしてくれたのは「ARMANA APPAREL BANGLADESH」という企業です。ここでは主に「GAP(ギャップ)」のジーンズ生産を請け負っており、他にリーバイスやNEXT in UKからも受注しています。工場を案内してくれたのは生産管理責任者の方と、GAP社員のお二人。

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 写真左が生産管理責任者のAnowarさん、その右隣がGAP社員のJillurさんです。

この企業の創業は1986年。当初3つの生産ラインから開始したそうですが、その後6ライン追加、次いで6ライン追加、さらに14ライン追加と事業は伸びに伸びて現在従業員15,000人を擁する大企業になっています。Washing Plantも自前で持っており、年間売上は1986年の約500万ドルから2010年12月時点で2,000万ドルまで成長。縫製産業の伸び率のすさまじさを物語っています。

見学した工場はダッカの中心部であるファームゲート近くにあり、この工場だけで従業員は約2,000人。10階建ての立派なビルです。一人一人にIDカードが割り当てられ、出退勤管理はコンピュータシステムでなされています(シャプラ東京事務所はまだタイムカード運用です~)。

Chec in Control.JPG生産ラインはこんな感じ。 

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一見したところ整然として明るく、働きやすそうな印象。以下、質疑応答の内容をかいつまんで。

‐工場はダッカ以外にもあるんですか?

「あります。ナラヤンゴンジ、ノルシンディ、ガジプール、マイメンシン、タンガイルですね。最初ダッカから始まって次第に周辺地域へ広がっていったので、この工場は一番古い建物なんです。新しい工場はもっと設備が充実していますよ」

‐え、これで?地方の工場見たら腰抜かすかも。従業員の男女構成と年齢層は?

「男女比率は男:女=3:7です。年齢層は18~45才まで。基本35才までなんですが、高スキル人材は45才までとなっています。でも人数は極めて少ないです」

‐平均寿命66.1才(2008年、世銀調べ)の社会で35才まで、というのは従業員にとっては厳しいかもな…。でもとりあえず職があるだけでも全然違うか。そういえば村で若い女の子に話を聞いてもあまり「ガーメンツで働きたい!」っていう娘はいなかったんですけど、リクルートはどうやってるんですか?

「新たに人を雇う必要が出てきた場合はまず会社の中で告知します。その中で信用のおける社員を探し、その人物を介して連絡をとります」

‐なるほど~!いわゆる縁故募集だったのか。完全な買い手市場だけど、採用側の立場からすると合理的な判断。あと一般公募がないのなら少女たちが縫製工場への就職を我がこととして考えられないのも理解できる。選考基準は?

「文字表記がすべて英語なので、SSC卒業(10年生、中学卒業程度)は必須です。品質コントロールに携わる人間はHSC(12年生、高校卒業)以上が要件です」

‐ガーメンツで働くためには英語は必須と。品質維持のためにはこれも当然。とはいえ意外と狭き門かも。昇給の仕組みは?

「職種としては大きく”Management”と”Worker”の二種類があり、Workerの中には”Operator”と”Helper”があります。さらにそれぞれ”Upper”と”Lower”があるので、Worker職は4段階に細分化されています。通常新入職員は”Helper”の”Lower”職から始まり、経験を積むに従って昇給します」

‐ほほう。賃金体系はどうなってますか?(教えてくれるかな・・・ドキドキ)

「HelperのLower(新入職員)で月3,000タカ、OperatorのUpperで月5,000タカです。労働時間は1日8時間で、残業が発生したときは別途残業代を支給しています」

‐昨年7月に政府が発表した最低賃金が新入職員の賃金なのか。これは予想通り。ただダッカの物価高騰ぶりを考えると3,000タカじゃ苦しいだろうな…。特に住居費。あ、寮はあるんですか?

「さすがにダッカでは賃料が高すぎて寮を持つことはできませんね。ただ地方の工場では寮を用意しています」

‐ということはダッカの女工さんたちはルームシェアとか親戚を頼るとかして住まいを何とかしてるんだろうな。きっと。給料が同額なら地方で働く方がメリットは大きそう。ちなみに昨日ある工場で火事があったそうなんですが、何か対策は取られてますか?

「はい。各階に避難経路の掲示と必要な備品の設置を行っています」

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Fire Fighting Equipments.JPG

‐備えあれば憂いなしですね。職場環境づくりという観点では何か留意されていますか?

「従業員たちは毎日同じ作業を長時間繰り返さねばなりません。ですので少しでも働きやすい環境にするために、明るさや清潔さを保つようにしています。今日は皆さんがいらっしゃるので止めていますが、普段は音楽を流すようにしています」

‐かなり職場環境に気を遣ってるんですね。

「はい。今バ国内には4000社もの競争相手がいて、しのぎを削っています。国際的なブランドを持つ大手からの受注を得るには、コンプライアンスの遵守が不可欠なんです。ですのでコンプライアンス・スタンダードを取得し、少しでも信用を高めるための努力をしています」

‐最近は消費者の間でも児童労働とか低賃金や長時間労働に対する関心が高まってきてるから、メーカー側として無視できなくなってきてるわけですね。それが委託先工場にとっても職場環境改善のインセンティブになっていると。良い傾向だと思います。競争といえば製造原価はどのくらいですか?(さすがにこれには答えてくれないだろうけど、ダメもとで!)

DSC01349.JPG「パンツ1枚の製造原価は●ドルです」

言っちゃっていいのΣ(゚д゚;)!?それふつーは企業秘密に属するはずの数字なんですが…何と言うか、ありがとうございます。え~先方は記事も写真もブログに載せて良い、と言ってくださったのですが、さすがに製造原価まで公開するのは信義に反すると思うので数字は伏せさせて頂きます(詳しく知りたい方は次回以降のツアーへご参加をお待ちしています)。ミシン等の設備はどこの国のものを使っていますか?

「もちろん日本です。ミシンはJUKI、検針器はHASHIMAのものです。検針器は1.2㎜以上の金属片であれば検知できます」

‐恥ずかしながらJUKIが日本のメーカーとは知りませんでした..。工業用で世界首位らしいですね。そういえば1月8日の日経新聞朝刊で「2008年のリーマンショック後に落ち込んだ衣料消費が世界的に回復、生産国の中国やバングラデシュでミシンの需要が高まっていることを背景にJUKIが取引先と個別に値上げ’交渉を開始」って報じられていました。実際にJUKIで統一されたラインを見たら納得です。

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画像のガラス張りになっている奥がパッキングセクション、その手前においてある青色の機械がHASHIMAの検針器(隠れてますけど)。全製品、検針器を通さないとパッキングできない業務フローになっています。その他の業務フローもかなり作り込まれていましたし、生産管理上の課題や不良品率の把握もキチンとなされていてマネジメントのレベルはかなり高度だと言えるでしょう。「生産管理上のボトルネックは何ですか?」との質問に即答されて驚きました。

 

「かいつまんで」とか言いつつ相当長くなってしまったのでこの辺までにしておきます。

今回はツアーを通して「縫製産業」という観察軸を提示させてもらった訳ですが、 現在のバ国社会における縫製産業を肯定的に捉えるか、否定的に捉えるかは意見が分かれるところだと思います。縫製工場の中には最低賃金すら遵守せず、長時間労働を課すところもあると聞きますし、今回のように法令順守を実践する企業であっても、そもそも「本当に最低賃金3,000タカが妥当なのか?」という見方もあります。その一方、安価な労働力があるからこそ縫製産業が成り立ち、相当数の雇用創出に貢献していることも見逃せない事実です。

これらは見る人やその立場によって、あるいは見るタイミングによっても変わってくることでしょう。ですのでここでは見聞きした事実のみ提供します。是非ご覧の皆さんの中で考えをまとめてみて下さい。

少なくとも今回のツアーでは社会的変容の最前線とも言える縫製産業から、その背後にある農村・都市における生活の様子まで見聞してもらうことができたので、ツアーメンバーの皆さんには当初目的であるバ国社会の変化を感じ取って頂けたかな、と思います(と思いたい)。

今回の内容が好評で、関心のある方が多いようであればまた企画してみようと思いますので、興味のある方、ご一報下さいませ。