チッタゴンのスラムで6日未明火事があり、子ども12人を含む21人の住民が亡くなりました。

チッタゴンというのはバングラデシュの第二の都市で、港町です。インドのムンバイにしろ、港町の近くには大きなスラムがあることが多いですが、チッタゴンもその例に漏れず、大小多くのスラムがあります。火元は蚊取り線香の火だとか、電気がショートしたのが原因だとか、新聞によって違うことが書いてありました。日本では師走になると放火などの火事が増えますが、バングラデシュではこれから夏に向かうこの時期に火事が多いのだそうです。最近はスラムの火事も頻発していて、これは強制撤去を簡単にするためではないか?と勘ぐってしまいます。

昨日、インターネットのニュースサイトの速報で最初にこの火事のことを知ったとき、まず感じたのは「21人も亡くなるなんて普通じゃない。変だ」ということでした。先日ダッカで大騒ぎとなった11階建てビルの火災でも、はしご車やヘリコプターを動員して救助活動が行われた結果、亡くなったのは4人。でもスラムの火事でどうしてそんなに多くの人が亡くならなければならなかったのか?火事が夜中に起きたから?消防車が来なかったから?

私がダッカで入ったことのあるような一般的なスラムであれば、確かにごみごみして路地は細いけれど、建物自体はあまり密閉性のないちゃちなものだし、そこで火事があっても声を掛け合ってすぐ逃げれば、命は落とさずにすみそうに思えます。よほど深く寝込んでいたとか、身体が不自由だったとか、重いものに挟まれたというのでない限り、そんなに多くの人が逃げ遅れることはちょっと考えにくいのです。

今朝のミーティングでスタッフに「昨日の火事のことだけど…」と聞いてみると、チッタゴンの大学で学んだスタッフの一人が教えてくれました。「アパ、あそこのスラムはね、一般的なスラムとはちょっとつくりが違うんだよ。土地を占拠した人間がその土地を高い塀で囲って、名前をつけるわけ。ここはフジオカスラム、こっちはオジマスラム、みたいにね。そしてその塀の中に小屋を建てたりして人に貸すわけだけど、この塀というのがおとなの背丈の2倍ぐらいあってすごく高いんだ。そして塀から外に出られる戸口はすごく狭い。それで閉じ込められた人が焼け死んだんだ。」

確かにあとで新聞をよく読んで見ると、「ブロック塀の狭い出入り口の傍の倉庫が燃えていたため、出入り口が塞がれた」とありました。でもそんなに高い塀を作ったのはなぜなんでしょう?

ひとつ考えられるのは、境界を曖昧にしておくと、他の人間にそこに何か建てられたり、囲われたりして、土地を取られてしまうから。実際バングラデシュでは、そうして土地を盗られた、という話をよく聞きます。ダッカ事務所のあるスタッフの実家の土地が急に何者かに占拠されたという電話が入って、そのスタッフが農村の実家にすっ飛んで行ったこともありました。日本でもありそうな話です。

でも、入り口をそんなに狭い1か所だけにしていたのはなぜなんだろう?外からの侵入者を防ぐため?

日本で生まれ育つと、子どもの頃から避難訓練などを繰り返しているせいか、いつも非常口を確認したり、通路を確保したりして、意識的にも無意識的にも、閉じ込められることを避ける行動をとっている気がします。しかし、どうもこちらの人たちは、外からの侵入者を防ぐことは常に神経質なぐらい考えているのに、閉じ込められることの恐ろしさをあまり意識していないように思えてなりません。

今日、政府職員住宅内にある、使用人として働く少女たちのためのセンターに行って、そこの女の子たちと話をしていたのですが、住み込みで働いている少女たちの多くが、「雇い主の家族が全員出かけるときは外から鍵を閉めていく」と言っていました。こちらでは、中からも同じ鍵がないと開けられないようになっている家がよくあります。彼女たちは鍵を預かっていないので、つまり家の中に閉じ込められているわけです。火事があろうと何があろうと、鍵がなければ外に出られません。でも、雇い主は当たり前のように少女たちを中に入れたまま鍵を閉めて出かけてしまう。彼ら・彼女らに言わせればそれは「年頃の少女の安全を守るため」。侵入者を防ぐことイコール安全、という感覚らしいのです。

防災の意識というのは、シュミレーションを繰り返し、無意識に身体が反応するぐらいにならないと用をなさないのかもしれません。閉じ込められることの危険性を常に意識していなければ、今回のような火災を防ぐことはできないでしょう。もし日頃からそういった意識があれば、塀はあったとしても、たとえばこういった事態に備えてはしごを用意しておくとか、出入り口を数カ所設けておく、ということもあり得たはずです。

蚊がわくことを怖れたりして防火用水を汲み置く習慣もないから、火が出てもすぐ消せなかったのかもしれません。タイのスラムには消防団があったけれど、バングラデシュにはスラム内の消防団はないのでしょうか。

機を見て少女たちの雇い主とのミーティングの中でも、「使用人の少女を家に閉じ込めているとき、もし火事が起きたら?」ということを考えてもらう機会を持ちたいと思います。