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Home > 現地からの便り > 街の脇役たち(第7回)
街の脇役たち
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第7回: 冬のスラム

「ネパールって寒いんでしょう?」とよく尋ねられるが、地域により気候が異なるのがネパールだ。カトマンズは、夏涼しく、冬もそんなに冷え込むことはないので過ごしやすいが、私は1日の気温差が激しい冬を苦手としている。朝夕はセーターと分厚い靴下が手放せないけれども、昼間はTシャツでも大丈夫で、外出時の服装には頭を悩ませる。だが上着を羽織ったり、鞄にしまったり、日除けの帽子を被ったり、調節に忙しいのは私くらいのものだ。スラムの住民たちは年中裸足にゴム草履、女性ならサリーの上にショールやカーディガンを羽織る程度だ。2月の寒さ厳しい折、竹と泥壁でできた彼らの家に泊めてもらったところ、十分な夜具がなく私一人寒さで一睡もできなかった。

冬のある日、知的障碍をもつ14才のケシャブ君が行方不明になった。家族は勿論近所の人も総出で探し、テレビやラジオの尋ね人のコーナーで放送してもらったが消息はわからない。「この寒い中、薄着で出て行ったあの子は自分の住所を言えないし、どこかで死んでしまっているんじゃないか」とお母さんは無表情で言う。もう探し疲れ、涙も枯れてしまったようだ。「あんたに、息子を預けられる施設を探してって頼んでおいたのに」彼女は私を問い詰めたわけではなかったが、彼がいなくなったことが自分の責任のような気がしてならなかった。この家族と知り合って以来、市内の障碍者施設やその問題に関わるNGOのことなど調べてみたのだが、いずれも身体に障碍を持つ人のための事業で、知的障碍をもつ人の施設はこの家族の収入ではとても賄えない費用の高額な病院があるだけだった。

その頃、私と同年輩のシェルパ族の女性が調子を崩していた。頭が痛いし、ごはんが食べられない、と元気がなかった。スラムでは調子が悪い、○○が悪いと聞くのが挨拶代わりになってしまっていたので、私もそんなに深刻には受け止めていなかった。数日後彼女は入院し、近所の人達が見舞いに行ったり付き添ったりして励ましていたのだが、病名ははっきりしなかった。それから数週間後、他の病院に移されたが回復することのないまま息を引き取った。彼女の葬儀の日、別の家の生後5カ月になる赤ちゃんが風邪をこじらせて亡くなった。白い布に包まれた亡骸があまりにも小さくて、私はその家族に何とお悔やみの言葉を述べればいいのかわからなかった。この半年ほど、新たな出会いと調査を通じた関係の深まりが嬉しくて何のためらいもなくスラムに通う日々が続いていた。だが彼ら同士の助け合いの精神など私にとって興味深いことに気を取られるあまり、スラムの人々が抱える衛生環境の悪さや、適切な処置ができない貧困の厳しさなど現実を見る目が麻痺しかかっていた。

行方不明になっていたケシャブ君は2週間ほどしてバスで30分かかる別のスラムで見つかった。どのように寒さをしのいだのか、何を食べていたのか、彼に説明を求めることはできなかったが、幸いそれほど衰弱しておらず、家族はまた元の日常に戻った。


バックナンバー

バックナンバーは以下でご覧いただけます。

第1回 カトマンズの住民に
第2回 正体を明かせるか
第3回 日本のプロジェクトらしいぞ
第4回 一緒に考えよう
第5回 援助関係者いろいろ
第6回 私にできることは?
第7回 冬のスラム
第8回 責任をしょいきれない
第9回 お父さんあっちに行って!
第10回 政治活動じゃないのに
第11回 『コミュニティ』の幻想
第12回 外の力を借りよう
最終回 いつか主役に

田中雅子(たなか・まさこ)
1967年名古屋生まれ。大学卒業後、会社員を経て留学したイギリスでNGOの活動に出会う。帰国後、シャプラニールスタッフとして勤務した後、1995年よりネパール・カトマンズ在住。現地のNGOとともにスラムの調査を行った。1999年より日本赤十字よりバングラデシュへ赴任。2002年より国際協力事業団の専門家としてガーナに赴任。

 

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