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Home > 現地からの便り > 街の脇役たち(第6回)
街の脇役たち
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第6回: 私にできることは?

カトマンズ市内の外れ、カラカラという音が響いてくると私の通うスラムだ。ここの女性たちは主力産業であるカーペット用の毛糸紡ぎに従事している。左手でフワフワの羊毛をつかみ、それを右手で回す糸車にかけていく。私も何度か挑戦したが、右手には力を入れ左手の指先はできるだけ力を抜くというバランスが難しく、紡ぎ手の女性がきちんと巻いた毛糸をはずしてしまったり、つながっている羊毛をブチッと切ってしまう。「この子は見込みがない」と思われたのか、最近は私が糸車に近づこうとすると「まあまあ、あんたはこっちで見てて」と別の場所にゴザを敷かれるようになった。賃金は1kg紡いで18ルピー(約40円)。これは米1kgの値段に相当する。一日頑張っても2kgくらいしか紡げない。紡いだ毛糸を束ねる作業で15ルピー加算されるが一日の収入は50ルピーほど。こんな暮らしだから外に出掛ける時間が惜しいし、病院に行く時しかバスにも乗らない。

そんな彼女たちをバスと徒歩で1時間かかる別のスラムに連れて行った。そこでも女性たちの仕事は毛糸紡ぎだが私の関わっているNGOの支援によって貯蓄・貸し付けグループを結成し、安い労賃から何とか貯金を続けている。他にも洋裁のトレーニングをやった実績があり、いわば先輩格の女性たちに日頃の疑問をぶつけてみようというわけだ。地域の住民グループといえば、男性がリーダーとなり女性は黙って聞いているのが当たり前だと思っていた人たちにとって、女性だけでグループを作り貯金を管理するというのは想像もつかなかったらしい。文字の読み書きのできない母親世代と、学校に通っている娘世代が一緒に活動する様子に大いに刺激を受けていた。見学を受け入れた側も普段NGOのソーシャルワーカーが訪問するときは受け身だが、外から人が教えを乞いに来たとあっていつもと違う自信に満ちた表情に変わっていた。最年長の女性はまるで演説するみたいに「家族の衣食住の面倒を見ているのは女性なんだから、私たちは自分で生活のことを考えていかなければならない。一人では難しいこともグループで活動することによって良い知恵が生まれる」という話をした。

帰り道、見学した感想を尋ねた。そこで最初に出たのは「私たちはカトマンズに住んでいながら他の人が何をしているのか知らなかった。マサコはこの国の人でもないのに何でいろんなこと知ってるの?」という質問だった。ネパールに来て以来、スラム住民の暮らしぶりや彼らならではの生活の知恵など教わることばかりで、自分のほうがよく知っていることなどないと思っていた。住民も多分「コイツは質問ばっかりして…」と思っていたに違いない。しかし、幸い交通費に困らないだけのお金があり、日銭を稼ぐ必要のない私はカトマンズのスラム住民が日頃行かないような場所も訪れることができたし、それだけに情報も集まった。私にできることがあるとしたら、助言を必要としている人に的確な情報を伝えることなんだろう。これまで教えてもらうことばかりで気が重かったのに、これで少し楽になったような気がした。


バックナンバー

バックナンバーは以下でご覧いただけます。

第1回 カトマンズの住民に
第2回 正体を明かせるか
第3回 日本のプロジェクトらしいぞ
第4回 一緒に考えよう
第5回 援助関係者いろいろ
第6回 私にできることは?
第7回 冬のスラム
第8回 責任をしょいきれない
第9回 お父さんあっちに行って!
第10回 政治活動じゃないのに
第11回 『コミュニティ』の幻想
第12回 外の力を借りよう
最終回 いつか主役に

田中雅子(たなか・まさこ)
1967年名古屋生まれ。大学卒業後、会社員を経て留学したイギリスでNGOの活動に出会う。帰国後、シャプラニールスタッフとして勤務した後、1995年よりネパール・カトマンズ在住。現地のNGOとともにスラムの調査を行った。1999年より日本赤十字よりバングラデシュへ赴任。2002年より国際協力事業団の専門家としてガーナに赴任。

 

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