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Home > 現地からの便り > 街の脇役たち(第10回)
街の脇役たち
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第10回: 政治活動じゃないのに

「一、酒を飲んで来ない。二、タバコの回し飲みをしない・・・・・」何の約束かと思いきや、これがスラムの識字学級で女性たちが初日に作った規則である。禁酒をよしとするヒンドゥ教徒の上位カーストよりも、飲酒のタブーのないチベット系民族が多いこのスラムでは、酒を飲む住民の姿をよく見かける。スラムの向かいの店では、一杯20円のチャン(ドブロク)を客に注ぎながら、おかみさんも一緒に飲んでいる。「飲まなきゃやってられない」心境なのか、トゥンバ(稗のビール)を片手に機を織る女性もいる。みんなホントに夜勉強できるんだろうかと心配したが、先生役をつとめるシャンティの家で識字学級が始まった。

半月ほどたったある夜のこと、メンバーの一人が教科書を返しにきた。晩ごはんを作り、家族に食べさせ、子どもを寝かしつける時間帯に毎夜出かけることができないというのだ。大家族の少ないスラムでは、本人以外に子どもの面倒を見る人がいないことが多い。夫がいても飲んだくれて子守りどころではないケースもある。毎晩近所の人に頼むわけにもいかない。「またの機会に」と言ってその人は去り、同じ頃クラスの半数が退学した。後で聞いてみると与党を支持している男性の妻たちだった。シャンティの父親がたまたま野党支持者だったので、与党支持者の男性から「女性たちが毎晩集まるのは政治集会ではないか」と思われ、やめさせられたらしい。忙しい家事の間をぬって来るのだから、教室に着くとみんな前日の復習に熱心で、政治の話なんて全く出ない。対照的なのは男たちで、朝から晩までギャンブルをしながら「あいつは○○党の支持者だ」「次の選挙は・・・・・」と口だけ忙しい。

ネパールは1990年の民主化で王政から複数政党制へと大きな転換をとげた。「民主化」の中身はさておき、町や村で政党の旗がひるがえっているのを見ると、政党政治が浸透したことだけは実感できる。1997年は早春から5月の地方選挙に向けて各政党員が盛んに動き回っていた。ある家は太陽のマーク(共産党)のポスターを貼り、隣人は木のマーク(ネパール会議党)のビラをまき、とスラムでも選挙合戦になっていた。半数の退学者が出た後、少人数ながらも識字学級が続いていたが、ある日シャンティの家の電線が切られた。スラムの住民は一世帯毎に電気メーターをもつことは少なく、何世帯かで共有したり、近くの電柱から盗電している。この家は与党支持の隣人とメーターを共有しており、ちゃんと料金を払っていたのだが、「政党活動の疑いがあるから電気は使わせない」と、電線を切られてしまったのだ。自分の家だけでメーターをつけるにはお金もかかるし、公有地に不法占拠しているのだから、役所にコネがないと簡単に許可を受けられない。「政治も政党も関係ない!」と説明したところで納得する相手ではない。もっとひどい妨害をされては困ると女性たちが言い出し、選挙が終わるまで識字学級は閉鎖に追い込まれてしまった。外国人が関わることさえ、「政治的なこと」と誤解される恐れもある。いつもは話し合いにのぞむ私だが、今回はあきらめざるをえなかった。


バックナンバー

バックナンバーは以下でご覧いただけます。

第1回 カトマンズの住民に
第2回 正体を明かせるか
第3回 日本のプロジェクトらしいぞ
第4回 一緒に考えよう
第5回 援助関係者いろいろ
第6回 私にできることは?
第7回 冬のスラム
第8回 責任をしょいきれない
第9回 お父さんあっちに行って!
第10回 政治活動じゃないのに
第11回 『コミュニティ』の幻想
第12回 外の力を借りよう
最終回 いつか主役に

田中雅子(たなか・まさこ)
1967年名古屋生まれ。大学卒業後、会社員を経て留学したイギリスでNGOの活動に出会う。帰国後、シャプラニールスタッフとして勤務した後、1995年よりネパール・カトマンズ在住。現地のNGOとともにスラムの調査を行った。1999年より日本赤十字よりバングラデシュへ赴任。2002年より国際協力事業団の専門家としてガーナに赴任。

 

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