第2回: 『負けるものか!〜夕食のお買い物、野菜編〜』
「ちょっとお買い物に行ってくるわ」と言っても、駅前のスーパーマーケットの地下1階食品売場など、ない。あるのはローカルのバザール。私が暮らしているのはダッカの西の方で、バングラデシュ人の中流(から中の上)の人たちが住んでいるモハマドプールという地区だ。ウチから歩いて5分のところにモハマドプール・バザールがある。また、リキシャで5〜6分のところに新モハマドプール・バザールがある。
バザールの生鮮食料品を売る場所は毎日開いている。野菜のコーナーには野菜を売るおっちゃんがずらっと並んでいて、だいたいどの店も同じような品揃えだ。野菜の種類は店によって違うのではなく、季節によって違う。
モハマドプール・バザールは何を隠そう、汚い。これは私だけがそう思っているのではない。地元の人たちもそう言う。特に女性はバザールに行きたがらないし、多くは行かない。イスラム教国バングラデシュでは、もともと女性はあまり外出しない習慣があり、公務員や教師など外で仕事を持っている女性でも「食品の買い物は男の仕事」と言う人が多い。曰く「だって汚いし、値段交渉するのいやだもの」
その、道がぬかるんでぐちゃぐちゃ、ほこりっぽくてごちゃっとしたバザールに行くと、まず気合いが入る。山積みの野菜を見ながら、手近の店のおっちゃんに声をかける。「キュウリ、1キロでいくら?」するとおっちゃんはすぐにキュウリを天秤にかけはじめる。「あとは何?」とか言われてしまったら慌てて「え、値段はいくらなの?」と負けずに言わなくてはならない。おっちゃんは私をジロッと見て客の値踏みをする。ここで「20タカ」などと言われたら、私は値段交渉もせずに別の店に行く。今はキュウリは12〜3タカのはずだ。
他の店で「14タカだよ」と言われたら、まあそんなものかと思って買いたいものをどんどん言う。「ナス、そう丸いのじゃなくて長いのを半キロ、人参1キロ、あとトマト半キロ」。店の人はそれぞれの野菜を天秤で測って黒いペラペラのビニール袋に詰めていく。あ、人参は腐りかけたのばかりだ、「ちょっとそれ腐ってる、これと換えてヨ」と言いながら、もう4月も終わり、大根もキャベツもカリフラワーも次の冬まで待たなくては食べられないなと思っている。人参はそろそろ怪しい、トマトはまだ大丈夫。ニガウリやウリ類はおいしい季節だ。
日本では、今やいろんな野菜がいつでも手に入る。バングラデシュでは首都ダッカですら、季節によって手に入る野菜が限られている。「季節感があっていい。いつでも新鮮な野菜が食べられて幸せだ」というのはよーく分かっている。でも、毎日あきない献立を考えて夕食を用意する主婦にとっては、ちょっと辛いところなのよ。
店のおっちゃんに合計額を計算してもらう。「47タカ」。負けるものか。 「え、何?ナスがいくら、トマトは?」頑張って聞き返す。ああそうか、人参がキロ18タカに上がっているのか。今日は値段交渉しなくても大丈夫そうだ。言われた額を払う。
97年〜99年滞在時の日記は以下でご覧いただけます。
白幡めぐみ(しらはた・めぐみ)
1967年千葉県生まれ。大学卒業後、アメリカのNGOでインターンとして1年間ボランティア活動に従事。帰国後の92年9月から97年3月までシャプラニールのスタッフとして東京事務局勤務。97年から99年までバングラデシュの首都、ダッカに在住。2001年8月から2005年12月まで、再度夫の白幡利雄(シャプラニールダッカ事務所長)とともにダッカに滞在。
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