夕方CNNをつけたら、ムハマド・ユヌス氏と彼の創設したグラミン・バンクのノーベル平和賞受賞が決定した、というニュースが飛び込んできました。バングラデシュのテレビはこういうときにパッとニュース速報が出るとか、特別番組に切り替わるなどということはないので、定時ニュースの時間にならないと、いつもどおりドラマとかクリケットをやっています。大ニュースなのにね、とほほ。
もっともずいぶん前からユヌス氏は何度もノーベル賞候補になって、今年こそは...という報道もあったから、バングラデシュ人はみんなそれほどびっくりしないでしょうけど。何はともあれ、ユヌスさん、おめでとうございます。
私はユヌス氏とお会いしたことは一度しかありませんが、シャプラニール自体は代表理事はじめかなり以前からのおつきあいがあります。冒頭の写真は彼の自伝(英語版)の表紙ですが、この写真そのままの、「顔に力のある」方で、笑みをたやさず冗談を交えつつエピソード満載に語るその話術は、人を逸らすことがありません。NGOのリーダーには「こういう人を惹きつける表現力」が必要なんだよなあ、と納得。
もっとも、ユヌス氏ご自身は、「グラミン・バンクはNGOじゃない。損を出さずにサステイナブルなビジネスを通して社会を変革する組織だ」とおっしゃっていて、確かにいまやグラミン・バンクはマイクロ・クレジットのみならず、繊維産業、通信産業、エネルギー産業などなど様々な事業を行っているバングラデシュ随一のコングロマリットといっていい状態。(グラミンのHPで、Grameen Family of Enterprisesというページを見てみてください。)ちなみに今私が使っている携帯も、Grameen Phoneのものです。
私がお会いしたときはちょうどサッカーのワールドカップが盛り上がってバングラデシュ中が各国の旗だらけになっていた頃で、ユヌス氏が「ワールドカップがもうちょっと後にあればなあ、これからやろうと思っている『モンガ(*注)をなくそうキャンペーン』で貧しい女性たちが縫った旗を売るという手があったんだがなあ」とつぶやいていらしたのが印象的でした。元々経済学者ですが、いつもこんなユニークなアイディアを考え続けているビジネス・センスのある人だからこそ、グラミン・バンクをここまでにしたのでしょう。
(*注)モンガ=農作業が少なくなくなる時期に他人の農地で働く農作業労働者が収入を得る手段を失い、何日も食事ができないような飢餓状態になること
1983年にユヌス氏がグラミン・バンクを創設し、マイクロクレジット(無担保で小規模な資金を貧しい人に貸し付け、少しずつ返済してもらうシステム)を開始して成功して以来、バングラデシュ中の多くのNGOがこのシステムを取り入れ、いまや全国どこにいってもマイクロクレジットを行うNGOの看板が立ち、どんな田舎でもこのシステムを知らない人がないほど広がっています。
シャプラニールは最初は皆が飛びついたこのシステムの導入にかなり慎重で、小規模な資金を村人に融資する際は、従来どおりショミティというグループに対して、共同の投資のため・共同管理・共同返済ということでお金を貸していましたが、個人単位で借りたいという住民のニーズ、グループ単位で貸すと、それを投資したもの(灌漑ポンプ、家畜など)からメンバーが被る利益にどうしても差が出てしまったり、お金の管理で問題が生じやすいこと、一括貸付・一括返済は貸す側にとってのリスクが大きいこと、などの理由から、今は農村の3つのパートナー団体すべてが主に女性のショミティメンバーを対象としたマイクロクレジットを行っています。貯金やローンの返済分を集めるのはショミティのミーティングの時にフィールド・スタッフが行いますが、貸すのも返すのもメンバー個人単位。同じショミティの中にも「私は2千タカ借りて山羊を飼うの」という人もいれば、「私は今度は5千タカ借りて小さなお店をやるわ」という人もあり、「私は今のところ貯金だけしてローンはやめとく」という人もいる、という状況です。
写真=女性ショミティのミーティングで貯金やローン返済のお金を集める農村パートナー団体のスタッフ
バングラデシュにはそれまで行っていた他のプログラムを全部やめてしまってマイクロクレジットだけに絞ったり、最初からマイクロクレジットだけをやる団体が非常に多くなり、団体間の競争が激しくなっています。そうなってくると、貧しい人の自立のためのマイクロクレジットなのか、貸す側が儲けることが最優先なのか、わからないような団体が増えているのも事実。当初はグループのメンバーになって3ヶ月はローンを出さない、とか、貯金が一定額貯まるまではローンを出さない、というNGOが多かったのに、最近はメンバーになって翌週にはローンを貸すところが増えています。
最初に貸すローンの上限額も上がる一方。借りる人にとっては有難いでしょうが、返済できないリスクは高くなります。ある団体で借りたローンが返せず、ほかの団体で借りたお金で返す、という多重債務状態に置かれる人も出てきています。また、貸す側にとっては多く貸して利子も多くついてきたほうが儲かるわけですから、貧しい人のためのマイクロクレジットと言いながら、貸し付け対象者の基準がどんどん緩くなり、実際には最貧困層には見向きもせず、ある程度お金のある農民にしか貸さない団体も多くなっています。
広い場所に家が点在し、交通も不便な大河の中洲(チョール)のような場所は、マイクロクレジットをやるNGOが入ったものの、うまくいかなくて引き上げてしまった、というケースもよく聞きます。人口密度が高くて交通が便利なところのほうが、ローンを貸したり返済したりする対象者へのアクセスが効率よくできるわけです。チョールみたいなところはその反対でマイクロクレジットには非効率。こういう地域では教育や保健衛生にも遅れが目立ち、NGOの活動のニーズは高いのに、NGOがあまり入ろうとしないのはそういう理由もあります。
一歩間違えると本来の目的から外れかねず、いろいろ議論のあるマイクロクレジットですが、貧しい人たちが自分の力で貧困から脱出するために大きなチャンスとなるのは事実。しかしバングラデシュのように団体間の競争が激しくなり、悪徳団体も現れて玉石混交状態となると、その中で生き残っていくのはNGOにとっても大変ですし、村の貧しい人たちも、地域によっては複数のNGOからアプローチされ、その中から安全なNGOを自分で「選ぶ」必要が出てきます。政府が法律で厳しく規制をかけるという「マイクロクレジット規制法案」もだいぶ前から話題に上っていますが、どうなりますやら。
シャプラニールから独立した農村パートナー団体が、地域のニーズに即した活動を持続的に行っていける組織になるには、マイクロクレジットをどう扱っていくかもひとつの大きな鍵。経済分野が不勉強な私にとってはどちらかというと苦手な分野ですが、もっとマイクロクレジットについて勉強し、バングラデシュ内のマイクロクレジットの動向にも気を配り続けねば...と思っています。
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