社会問題の根を見通す目が欲しい
精神科医でノンフィクション作家としても活躍されている野田正彰さんがバングラデシュを訪れ、先日ダッカ事務所にもいらっしゃいました。野田さんは80年代半ばに雑誌の企画で当時の川口事務局長にインタビューされて以来、シャプラニールの活動に関心を持ってくださっていたとのこと。スタディツアーや他の訪問者の予定が立て込んでいる時期でもあり、シャプラニールの活動現場を見たい、というご希望に沿うことは結局できませんでしたが、野田さんの旅の最初と最後にお茶を飲みながらお話する機会がありました。
バングラデシュ訪問は初めてとのことでしたが、わずか10日ほどの間に、オールドダッカを歩き、北部のインド国境沿いの少数民族の集落を訪ね、北東部のシレットでは紅茶園労働者の給料日の様子を観察し、南西部のシュンドルボンからダッカまでの船旅もされたそうで、その行動力にはびっくり。
短い旅ながら、バングラデシュの主だった都市の広い面積を占める軍用地や、紅茶園労働者をしばりつけている低賃金と低価格小麦配給のからくり、少数民族の中にもある格差などについて、鋭く観察されていました。私など1年以上この国に住んで活動していても、モノがよく見えていない事実をつきつけられたようで、いやーほんとに恥ずかしかったです。
「この国にとって何が本当に必要なのか、長い目で考えないといけないね。ODAにしてもインフラなどこの国の政府が当然やるべきことを他国のODAが代わってやる前に、現政府の政策内容を問うべきでは。少数民族への弾圧や広がる貧富の格差の問題などについても、もっと訴えていかなければといけないと思う」と言って帰っていかれました。
今回の旅のことをどこかに書かれるのかどうか、その辺りの計画についてはお聞きしませんでしたが、ぜひ野田さんのバングラデシュ・ルポが読みたいですね。
「貧困や差別・抑圧の問題は、世界や社会のあり方にその根をもっており、単純に財やサービスを供給するだけで解決する問題ではない。活動を行うにあたっては、常に問題の構造や原因を理解し、その解決につながる方法をみずから考える支援のあり方を重視する。」
これはシャプラニールの「海外協力に関する活動指針」に書かれている一節です。駐在員として今関わっているプロジェクトを実施することにいっぱいいっぱいになっていないか?この国の現在の問題が正確に見えているか?その構造や原因をちゃんと理解しているか?野田さんとのお話をきっかけに、あらためて自問していますが、まだまだ全然できていない、というのが実際のところ。
私たちはジャーナリストではないですが、とくに日本では伝えられることの少ないこの国の現在の状況について、質の高い情報を伝えていくことも駐在員として大事な役目。しかし、そういう情報収集・分析能力というのは一朝一夕には身につきませんね。やはりいつも注意深く社会の動きを観察しつつ、自ら動いていろいろなものを見に行き、分析し、考える、という積み重ねが必要でしょう。
能力的な限界はありますが、せっかくブログという発信の場も持たせていただいているのだし、なるべく広く、表面のみでなく、この国の状況をお伝えできるよう努力したいと思います。