「自分から変わろう」という人たちと仕事したい-その1
先日のインド出張、仕事の中身を書かないままでしたが、あれは今年から始まるインドプロジェクトのひとつ、「コルカタ周辺で家政婦として働く女性たちへの支援事業」を共に実施するパートナー団体、ポリチティ(Parichiti)との打ち合わせと契約書を交わすのが主目的だったのでした。
会員の方にはすでにシャプラニールの会報「南の風」でお伝えしているので、繰り返しになりますけど、会報に書いたのとはちょっと違うかたちでポリチティとそこに関わる女性たちのことを紹介したいと思います。
ポリチティの理事やスタッフは全員女性。組織の規模は小さいのですが、国際NGOのシニアスタッフや新聞の論説委員など、仕事を持って第一線で活躍している女性たちが中心になって立ち上げました。
そのうちのひとり、オンチタ(Anchita)は誰もが名前を知っている大きな国際NGOのマネジャーレベルの人ですが、まったくの個人としてポリチティの活動に関わっています。ドロン(Dolon)も西ベンガル州でよい活動をしている中規模NGOの副代表。彼女たちと最初に会って話を聞いたのは去年の9月だったから、もうすぐ1年たつんですね。

写真左=ポリチティ立ち上げの中心メンバーのうち3人。左から、ドロン、バシュワティ、オンチタ。バシュワティは英字紙の論説委員
ポリチティ設立の経緯について、Anchitaは言っていました。
「だいぶ前から、コルカタ市に隣接する南ポルガナ県とか北ポルガナ県の農村からコルカタの中流家庭の家政婦として通ってくる女性がどんどん増えてきたの。とくに早朝彼女たちを乗せてくるローカル列車は、Domsetic Worker Expressなんて呼ばれるようになった。彼女たちの状況はほんとにひどくてね。列車にはもちろん駅にも女性が使えるトイレなんかないし、日も昇らないうちから家を出て何時間もかけて通ってくるから、村で子どもたちの面倒を見る人もいないんだよね。そういう人たちの夫はたいてい仕事がなくて、生活は彼女たちの肩にかかってるから、女性たちは何件も家をかけもちして必死で働くの。早朝から午後2時とか3時までの間に3件ぐらいの家でものすごい量の仕事を超特急でこなして、また満員列車で帰るわけ。それでも家に帰りつくころには日が暮れちゃうんだけどね。彼女たちはほとんど休みもないし、食事をする場所もないし、雇い主の中には彼女たちをまともに人間扱いしないような人も多くて、トイレも使わせなかったりする。ちょっとでも遅れたらすぐクビにしたり、暴力を振るったりね。

写真右=コルカタから農村へ向かう午後の列車の女性専用車
私たちはそういう女性たちの状況が気になっていて、NGO仲間の女性同士顔を合わせるたびに、ずっと『誰かが彼女たちのために何かするべきだよね』って話していた。でもこういう問題に取り組むNGOってないんだよね。あまりにも自分の生活に近すぎるというか。私たち中流階級のNGOスタッフも家ではほとんどの人がお手伝いさんの世話になっていて、だからこそ働けてるわけだからね。結局この問題に取り組むことは、自分とかすごく自分に身近な人の生活に真正面から向き合うことにならざるを得ないわけよ。NGO関係者でもそういう自分の私生活に返って来るようなことは避けたいって人が多いんだよね、正直なところ。」
「それで、私たちはついに決めたの。『誰かがやるべきだ』って言い続けて何もしないことはもうやめよう、って。それでお金はないけど私たちの給料の一部をつぎこみながら、この問題に取り組み始めた。これまでコルカタで家政婦の女性たちの問題に特化して取り組んでる団体なんてなかったから、そのうち何かあると他のNGOからも連絡が入るようになってきた。まだ10代前半の少女が、家政婦として働いていた家で不審な死を遂げた事件とかね。それで被害者本人や家族がそういう事件の訴訟を起こすときに裁判のモニターを手伝うことも始めたの。一度単発でアメリカの女性団体から助成金をもらったけど、それももう切れちゃうから、シャプラニールの支援は本当に有難い。これでやらなきゃと思いながらできなかったいろんなことができると思う。」

写真左=駅のホームの一角を囲ってポスターを下げたポリチティの相談コーナー。黄色いサリーの女性はポリチティのスタッフ
ポリチティは今、毎週火曜日にこういった女性たちが多く使うローカル列車の駅のひとつ、コルカタ南部の「ダクリア駅」に出向いて、女性たちの話を聞いたり相談にのっているほか、家政婦として働く女性が被害者となったケースの裁判の支援、彼女たちの状況改善のための地方政府への働きかけなどをしています。たとえば最近、あまりに超満員の列車から女性が落ちるという事故があったそうで、「女性専用車」を増やしてほしい、といった働きかけをコルカタ市当局にしているとのこと。
シャプラニールと一緒に始める新事業では、これまで彼女たちが自腹をきってやってきた仕事をサポートすると同時に、この駅の近くに女性たちが立ち寄り、トイレを使ったり、水を飲んだり、食事したり、休んだりできるようなドロップ・イン・センターの運営も始めます。

写真右=ダクリア駅を使う女性のひとり、コムラーさんの家を訪ねた。農村とも言い難い郊外の荒れ地のような場所だった。
「でも、女性たちにサービス提供することが私たちの目的じゃないの。ゆくゆくこの女性たちが自分たちの組織をつくって、労働条件をよくするための交渉や社会への働きかけができるようになること、それが目的。だからドロップ・イン・センターでも、場所はもちろん使ってもらうけど、食事の提供をしたりする気はないの。そこで女性たちが集まってミーティングをしたり、ワークショップをやったりできる場にしたい。そういう場を提供することや、女性たちが力をつけていく手伝いをしたり、彼女たちの声が社会に聞かれるようにファシリテートしていくのが私たちの役目。こっち側の駅での活動だけでなくて、農村部でもやらなきゃいけないことはたくさんある。」とオンチタやドロンは言います。
私たちが日本で「南北問題の解決は日本など先進国で暮らす私たち自身が自分の生活をみつめなおすことなしにはありえません」と言っているのと同じことで、南アジアの都市問題の解決には、そこで暮らす中・上流階級の人たちが自分の生活を見直し、変えていくこと、自分たちの生活を支えながら困難な状況で暮らしている貧しい階層の人々の存在を意識することが不可欠だと私は思っています。
だからこそ、とくに都市のプロジェクトのパートナーは、「自分たちから変わろう」という人たちと仕事したい。「かわいそうな人に援助する」という考え方ではなくて、「自分たちが変わり、できることをすることで、世の中が変わっていく」という考えを持っている人たち、困難な生活を強いられる「当事者」の声を熱心に聞き、その人たちが力をつけて自ら立ち上がっていくことが重要だと考えている人たちと一緒にやっていきたい。
ポリチティのメンバーは、駅を使う女性たちと相談しながら今ドロップインセンターの候補物件探しを進めています。ポリチティの団体としてのロゴも今までなかったのですが、これも家政婦として働く女性たちにどんなのがいいか聞きながら作ろうと思っているそう。
規模は小さいし、まだこれから始まる新プロジェクトですが、きっとこの活動にはシャプラニールのこれまでの経験も生かせるし、シャプラニールがこの活動を通じて学べることも多いはずだと信じています。そして、バングラデシュやネパールで同じような取り組みをしているNGOともぜひ経験交流の場を設けたい。都市の問題と農村の問題にバラバラに取り組むのでなくて、両側から同時に取り組むうちに都市と農村の関係や人の動きがみえてくる...そんな仕事もやっていきたい、と思っています。
私も何かできる形で関わってみようかな...そんな風に思ってくださる方がいらしたら、ぜひこちらから。