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ベンガル文学の深い海

私は本が好きなので、ダッカでも最もきれいな本屋へ歩いて2分という我が家のロケーションはとても気に入っています。出張のない休みの日はたいてい、この本屋へ行ってぶらぶらしています。

去年ダッカに来てすぐの頃、本屋で「若手バングラデシュ人が英語で書いた小説」がないか、ずいぶん探したのですが、みつかりませんでした。お隣のインドでは英語で書く若手作家が増えていて、そういう小説を読むと都市の中流階級の若者の気分だとか、様々な地方の習慣とか、いろいろなことがわかるのですが、バングラデシュではどうもそういう本はあまり無いらしい、とあきらめていました。

それが駐在して約1年たち、ベンガル語が多少わかるようになってきたら、ベンガル語で書かれた本たちが向こうから訴えてくるようになりました。バングラデシュ人作家のことも少し調べてみたら、魅力的な作家がたくさんいることがわかってきました。やっぱり、バングラデシュの文学は昔も今もなんといってもベンガル語、だったんですね。

ちょっと前までベンガル語で書かれた本の装丁や印刷はどうもいまいちだったようですが、最近は「世界水準の印刷や装丁でベンガル語の本を」と1997年に設立されたオンノプロカーシュ社などが、思わず手に取りたくなるような素敵な本を出しています。

Humayun Ahmedの本.jpg

左の2冊はバングラデシュでもっとも売れている現代作家、フマユーン・アフメッドの小説。出版社はオンノプロカーシュ。左の本、「黄色いヒムと黒いRAB」など、表紙デザインもなかなか斬新ですよね。(ちなみにRABというのは、2004年に犯罪取り締まり強化のために導入された警察の緊急行動部隊。しょっちゅう街中で軽犯罪者相手に銃撃戦を展開。ヒムというのは彼がよく好んで小説に登場させる人物です。)

2冊買ったものの、実際読んだのはまだ1冊目の4分の1ぐらい、というところなのですが、彼の作品はとても平易な言葉で書かれている上、現代のダッカの風物などがいろいろと出てくるので、都市の中流階級の気分を知るにはまさしくうってつけです。登場人物もとても生き生きと魅力的で、ちょこまかと要領のいい主人公の少年や、財産目当てで未亡人の義姉を引き取った小ずるいお父さん、頭に血がのぼると使用人を呼んで頭にザーザー水をかけさせるお母さん、テレビドラマの女優志望の若いおば、ビデオ屋で働く主人公の兄貴分、などなど、いろいろな人が出てきて、思わず笑ってしまうような面白いことを言ったりやったりするのです。文章にも漱石の「坊ちゃん」を思わせるような独特なリズムがあって(これはベンガル語と語順がほとんど同じ日本語ネイティブだからわかるのだと思う)それも魅力。

フマユーン・アフメッドは元はダッカ大学の化学の教授だったそうですが、70年代から小説を書き始め、その作品は100以上の数に上ります。本屋には彼の著作がずらりと並び、しかもどんどん新刊が出るので、いかに精力的に書いているかがわかります。ドラマの脚本も書くほか、最近は映画監督としても活躍中。お化け話などもよく書いているので読みたくてしかたないのですが、読みたい気持ちにベンガル語力が全然追いつかないのが本当に悲しい。

女性作家の本.jpg


女性作家の作品もいろいろあります。右の2冊は、左が現代バングラデシュでも最も重要な女性作家のひとりといわれるセリナ・ホセインの「戦争」。右は、その著書「ロッジャ=恥(1993)」がコーランを侮辱したとイスラム原理主義者に攻撃され、94年にスウェーデンに亡命したタスリマ・ナスリン(彼女のオフィシャルウェブサイト発見!ぜひリンクをご覧ください)のエッセイ集。(タイトルは訳せば「いかれた娘の戯言」といったところでしょうか。亡命前に書かれ、版を重ねているものです。)

セリナ・ホセインの「戦争」は、1971年の独立戦争時の庶民、とくに女性の生き様を描いた長編小説・・・らしいのですが、悲しいかな私の今のベンガル語力ではこれが読みこなせるようになるのは相当先になりそうです。でも最初の3ページだけ読みました。冒頭の一文は「タラモンの結婚が壊れた」。タラモンという10代半ばのムスリムの少女が、夫に離縁され、父親とともに農村の実家に戻っていくシーンから始まります。離婚されても生まれた家に帰れるのがうれしくてしょうがなくて、手にした小さな荷物をぽんぽん投げ上げながら歩く少女、何があったのか聞くに聞けず黙って歩く父親。・・なんとかして読みたい作品です。

英訳アンソロジー.jpg


ベンガル語現代文学を英語で概観したい方には、こんな本も出ています。「クリシュノチュラの下で」は、1952年から2002年までの50年間に書かれたバングラデシュ文学の中から選んだ詩や短編小説、戯曲のアンソロジー。前述の3人の作家の作品も収められています。ほとんどがベンガル語から英語に訳されたものです。

ああ、なんとかして一夜にしてベンガル語小説をすらすら読みこなせる力が授からないものか...。いや、語学習得に王道なし、地道に努力するほかないのでしょうね。

私のベンガル語は例えていえば、足が着くプールでやっと10メートル泳げるようになった子どもぐらい。深く美しいベンガル語文学の海の前で途方にくれています。

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