インドの家政婦ベイビーの「普通じゃない人生」
久しぶりに昔住んでいたインドのニューデリー(今は猛暑!)へ行ってきました。5月11日から13日は、ダッカ事務所は祝日含め3連休。何をしようかなーと思っていたところ、デリーでフェミニズム出版社Zubaanを営む敬愛する友人、ウルワシー・ブターリアから新しい本の出版記念イベントの知らせがメールで舞い込みました。(出版社Zubaanのウェブサイトは、http://www.zubaanbooks.com/)

その新しい本というのは、デリー近郊で家庭の使用人(家政婦)として働く女性が、幼い頃からの苦難の人生を自分で記した本。6年生までしか学校へ行っておらず、12歳で結婚させられ、13歳で最初の子どもを産んだ彼女が、現在の雇い主である大学教授の励ましを得て、毎夜仕事の後ノートに向かい、書き上げた本なのでした。タイトルは“A Life Less Ordinary”、直訳すれば「あまり普通じゃない人生」。元は彼女の母語であるベンガル語で書かれたものを、雇用主の大学教授がヒンディー語に翻訳し、それをさらにウルワシーが英語に翻訳したわけです。(ベンガル語版もあとから出版されています)
当日は著者であるベイビー・ハルダールさんが出てくる短いドキュメンタリー・フィルムの上映後、ベイビーさんと、アクティビストとしても知られる女優のナンディータ・ダスさんのトークがあるとのこと。デリー往復のエアチケットはちと高いけど、ダッカの自宅で3日間だらだらしているより、えいっと行っちゃおう!デリーの友人たちにも会いたいし、と思い立ち、行ってきて正解でした。

ベイビーは今30代前半。たくさんの聴衆を前に相当緊張していましたが、控えめな中にも知性を感じさせるひとでした。ウルワシーが持ちかけたこのトークへの参加を二つ返事で引き受けたというナンディータはインドでは誰もが知っている有名な女優さん。本のフレーズを時々読み上げて紹介しながら、ベイビーの話をうまく引き出し、トークをまとめる知性と美しさに惚れぼれ。才色兼備とはこういうひとのことを言うのだなあ。(ナンディータのことをもっと知りたい人は彼女のオフィシャル・ウェブサイト、http://www.nanditadasonline.com/を見てください。広島にも来ているし、津波のときはスリランカにも行っています。)
photo:思いを語るベイビー(左)とナンディータ
私はもうヒンディー語をすっかり忘れており、ベンガル語でベイビーさんに質問しました。今の雇い主である大学教授は、あなたが本を書くにあたってどんな風に励ましてくれたのですか?今あなたの前に家庭の使用人として働く小さな少女がいたら、その子になんと言ってあげたいですか?
ベイビーさんは考え考えこのように答えてくれました。「大学教授の私の雇い主は、ずっと教育に携わってきた人なので、人の中にあるダイヤモンドを見つける才能があるのだと思います。そうやって私の中のダイヤモンドを見出し、それを磨くように励ましてくれました。」「使用人として働くほかの少女たちには、家の仕事をするだけでなく、何かひとつ、自分ができるほかのことをみつけなさい、と言いたいです。」
少女時代悲惨な人生を送ってきたベイビーですが、今の雇い主に出会え、才能を見出されたことは本当に幸運でした。今は家政婦の仕事をしながら2冊目の本を執筆中とのこと。

今年からシャプラニールは使用人として働く少女たちのためのプロジェクトをダッカで、家政婦として働く女性たちのためのプロジェクトをインドのコルカタで始めます。コルカタの女性たちも村から早朝ローカル列車に揺られて通勤し、少ない賃金で酷使されて相当大変なのですが、ダッカで使用人として働く少女たちは小さな子どもなだけに悲惨です。ベイビーさんの本はバングラデシュでは残念ながらまだ出版されていないようですが、ベンガル語版が出せれば、バングラデシュで使用人として働く少女たちも小学校4年生ぐらいまで行った子なら、読むことができるでしょう。
なんとかバングラデシュでも(そしてできれば日本でも)この本が出版されるように繋ぎをつけたいものです。
photo:左からZubaanのウルワシー、本を手にうれしそうなベイビー、ナンディータ
(2006年5月14日)